やっぱりこれこそが新堂冬樹の真骨頂。
誰がなんと言おうとこの作品は、現代実社会に潜みうるホラー小説である。
幽霊も悪魔も超能力もモンスターも出てこないけれど、現実に発生しうる事象が積み重ねられ、でもそれらは滅多に起こらないようなとても稀少な、そしてとても不幸な現象で、そんな出来事が蓋然性を持って集積して、ついには奈落の底に転げ落ちていくのだから。
ホラーと呼ばずして何と呼ぶ?
ものすごく瑣末なことを言うと、プロットの組み上げ方は芸術的に素晴らしいのにそれを構築する文章そのものはまあそんなでもないとか、この人の作品に時折見られる、物語の終盤、クライマックスに差し掛かるにつれてちょっと現実感を喪失した、やや荒唐無稽ともいえる展開をしがち、という悪例がここにもあったか、という風なことを感じはした。 でも、ここまで書いといて何だが、そういったところは抜きにして抜群に蠱惑的、一気読みできるほどに。 |