ここまでくれば内容に間違いはないので細かい賛辞は省くとするが、それでもあえて述べたいのは、作中に満ち溢れる“季節感”の強さについて。
今の日本において、特に都市部はその傾向が顕著だと思うが、この季節にこの場所でなければ食べられない、といった限定的な食物や料理はあまり多く存在しない。
かつては収穫できる時期が限られていた野菜や果物も、ハウス栽培の普及や農業の革新によって一年中入手可能となり、また輸送速度の向上や保管技術の進歩は、産地限定品やナマモノの可食範囲を圧倒的に広げた。
そんな、現代に生きる我々がたやすく忘れがちな季節感、というものが各物語に色濃く込められているのだ。
季節感という言葉は、あるいは風流と置き換えてもいいかもしれない。
利便性だけは高まったが、失ったもの、捨ててきてしまったものがあまりに多い今がいいのか、それとも古の生活の方が幸せなのか? |