表題作を始め、まさに奇想という言葉がしっくりくる乱歩の独自世界観がヴィヴィッドに感じられる短編がいくつも。
奇怪であり、時におどろおどろしく、気色悪い。
中にはユニークな着想のみの域に留まり、展開しきれていないような話もあるが、昭和初期独特の空気はどの作品にも詰まっており、読者に具体的なヴィジュアルイメージを想起させるという点では、今なお図抜けたものを持っていると思う。
たびたび思うことだが、小説の短編集は音楽のアルバムに似て、各小品のクオリティはもちろんのこと、並べ収める順序というのも重要だ。
その点においても、「人間椅子」に始まり、「挿絵と旅する男」で幕を閉じるこの短編集は成功を収めている。 |