海洋空間佳本


無言の旅人 無言の旅人」★★★★☆
仙川環
幻冬舎

2010.12.27 記
尊厳死という、なかなかにジャーナリスティックでヘヴィなテーマを題材に描いた小説だが、一言でいって非常によくできた力作。
話の流れやディテールにはウソ臭くならないほどに留められた演出が施されているので、読み進めるうちに知らず知らず感情移入することができ、いつしか登場人物たちと同じように我が事の如く問題に向き合っている自分に気づく。
エンターテインメントとしても充分に読み応えがあり、物語後半から俄かにミステリーとしての色を帯びてくるあたりも、読者を飽きさせない見事な工夫だと感じる。

算数と違い、絶対的な正答など存在しない大きな命題に真っ向から対峙した今作は、あるいは哲学といった大仰なスタイルには関心を覚えない人も含め、すべての読者に等しく、目を背けてはいけない問いを投げ掛けていると思う。
いくら考えたって結局答えは出ないかもしれないし、また辿り着いたとしてもその回答が永続的に自己の中で不変であるとは限らない。
しかしそれでも考えることにこそ意義がある。
決して完璧な作品ではないかもしれないが、久しぶりにそんな青臭い感情を思い起こさせてくれた、良書。





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