特に前半に並べられた数作から立ち上ってくる、幕末〜明治〜大正〜昭和に掛けて世に満ちていたであろう濃密な気配は実に独特なもので、それこそ「死神と旅する女」に出てくる時影のような男がそこらを跋扈していたのだろうな…と頷かせる。
小野不由美氏の「東亰異聞」の世界にも通じる色合いというか。
一転、ダークなファンタジーといった趣の「カイムルとラートリー」では、動物好きの読者に過度なストレスを掛けない展開と結末に、ほっと安堵した。
それぞれ、絶対的な説得力を持つ理屈がギミックの裏側に構築されているというわけではないけれど、なんとも言語化しにくい幻想的な魅力を醸しており、改めて著者は短編の名手であると再認識した。 |