連載当時は1965年と、半世紀以上前の作品ながら、今も色褪せないプロットに感服する。
そしてその高い構成力のみならず、戦前・戦後の昭和の風俗を生き生きと描き出している文章も味わい深い。
藤子・F・不二雄氏の作品群に通じる着想も感じられる。
主人公本人にとっては、人生において相当のウェイトを占めたであろう、兵隊時代の十数年が作中で軽やかにすっ飛ばされているところもまた、主題をぼかさないための大胆な手法として奏功。
例えば伊沢先生の出自なんかが置き去りにされて気になったり、完全に閉じられた環の中にいる美子=啓子が発生した端緒は一体…? など考え出すと混乱が深まったりはするが、この時代特有の空気感を帯びつつ、タイムトラベルものとしての特徴を活かしたミステリーとしても、充分読み応えがあった。
また、解説が星新一氏ということからも、いわゆる玄人受けも良かったことが分かる。 |