表題作に描き込まれる、キリスト教の容認と排斥を巡り世界が一変する様と、その状況に対する著者の酷薄な姿勢は、第2次大戦の終戦前後で色々な価値観がぐるりとひっくり返った理不尽を目の当たりにした皆川博子氏の実体験に基づいているのだな…と過去のインタヴュー等からは類推できる。
メジャーなところでは遠藤周作氏、そして個人的に印象に残る篠田節子氏や貫井徳郎氏の作品等を引くまでもなく、文学の中で宗教と向き合う際には避けて通ることができない一面を如実に抉り出している。
さしずめ、もう1つの島原の乱、とでも称すべきドラマか。
後半に収められている時代物の作品群も、歌や芝居の世界に造詣が深い著者の指向が強く感じられ、読み応えがある。
「冰蝶」は、いわば「花闇」のプロローグ部分を膨らませたような短編で、度々氏の作品に登場する三代目澤村田之助への強い思い入れをここでも感じる。 |