モーターバイクのメカニズムをここまで学ばれたとは、というのがまず驚きで、その知悉ぶりを大いに活かしたトリックを意欲的かつ的確に織り込んでいるから、例えその行為が成功する蓋然性が低かろうとも、この時代特有のおおらかな背景も含め、充分リアリティのあるミステリーとして楽しむことができる。
個人的には、メッサーシュミットまで犠牲にするか…というのが、2つ目の驚きポイント。
特にこの頃に書かれた作品によく見られる傾向かもしれないが、氏のミステリーはラストシーンにこれまた昭和テイスト溢れる豊かな情緒がある。
そして、"普通"の仮面を付けて日常生活を送る人間の内に潜む屈折と闇を抉り出し、白日の下に晒す技術はピカイチ。
一瞬にして平凡が反転し狂気に変貌する様は、読者にとってまさしく恐怖ですらある。
「寺が地獄だから、俗世の俺に救いを求めた」 |