「天邪鬼」の起こりはここにあったとは。
舞台は戦時中の疎開先、里山ならではの様々な伝承が物語を回すという民俗的な空気が濃く、何より主軸は山の怪異譚と、私的に大好物の要素が並ぶ。 特に導入部、心造がついに屋敷に迷い込むまでの握力たるや凄まじい。 屋敷に揃う"霊宝"の数々を駆使して生き延びるべく化け物どもと戦っていくんだな…と想像させるに充分な設定は、まるでひと頃流行ったホラーゲームのようでもある。 もっとも、作中で紹介されるその霊宝の数がどうも多過ぎ、途中で目録を読み進めていくのが苦になる瞬間もあったが…。 さらにはここに、当時の軍国教育に染まった少年の狂気を通し、教職員を中心に左翼思想が蔓延しつつあった昭和30年代をクールに描写するくだりや、果ては何物をも超える家族の情愛なんかもぶっ込んでくるわけだが、そんな力技の数々が決して浮くことなく、見事に物語と融和しているのが心地良い。 筋と離れ、書かれている文章そのものもリズムに富んで美しく、日本語を操る力も相当なもの。
私もちょくちょく山に入るので、いつか大きな"屋敷"が忽然と目の前に現れたらどうしよう…とこれから頭の片隅で常に怯えるのではないか?
また、私は貴志祐介氏の作品も大好きだが、巻末に収められた選評を読み、やはりね、と独り納得したりも。 |