ちゃんと聴き込むようになったのは1990年代に入ってからだったが、そもそもはイカ天時代、もう30年近くも前になるあの頃から好きなトリオバンド、人間椅子の和嶋慎治氏がなんと自伝を出版されたのだというので、これはもう読まねばならない。
その音楽性や世界観は好んでいるものの、さすがにプライヴェートの動向までトレースしていたわけではないから当たり前だけど、和嶋氏が30代の一時期に結婚生活を送っていたとは知らなかったし(結婚しているのかということ自体に興味を向けた経験がなかった)、ライヴ中のMCで冗談めかして「いや〜今やってるアルバイトで…」などと話しているのを聞いた記憶はあるが、結構最近までこれほどリアルに苦労をされていたのだという事実にも初めて思い至ったのであった。
デビュー以来、活動休止することもなくコンスタントにアルバムを出し続け、ツアーも精力的に行っているというイメージだったが、その姿の裏でこのような日々を生きていたとは。
今世紀に入ってからも何度もライヴに足を運んでいるが、私がそのステージパフォーマンスを観て聴いて感動していたまさにその時にも、和嶋氏はこの書にある"暗黒編"の道程を歩んでいたわけだ。
幼少時から中高、大学生時代にかけて抱えていた様々な屈託や、節目節目で氏を襲う神秘的なオカルト体験、そして各アルバムあるいは各楽曲が生み出された時の心理状況及び生活状態についても赤裸々に綴られているから、読みながらiTunesを開いて彼らの音を聴かずにはいられなかった。
さらに読み終わった後に、特に2000年代後半あたりの曲を聴くと、また違った思いで耳を傾けることができる。
アーティスティックな才能と情熱を持ち合わせ、でも生きるのにとても不器用で、繊細過ぎる和嶋慎治という一人の男が、剥き出しの"魂"を曝け出し、紙の上に殴りつけたこの独白はまさしく文学であり、その"魂"が自らの立ち位置をしっかりと掴んで、生まれ直しを遂げていく様は文句なしで美しい。
ドン底を知った人間は、優しく、強くなれる。
この境地に至った氏がとても羨ましいとさえ感じてしまう。
人間椅子を背負うもう一翼、鈴木研二氏の自伝も読んでみたいものだ。 |