さすがの佐藤賢一、と唸るばかりだ。
筆運びの卓抜さときたら、まったく尋常じゃない。
いきなりの「三銃士」のオマージュにニヤリとさせられ、そこから先はトマ・アレクサンドル・デュマの豪放かつ数奇な運命に、読んでいるこちらも呑み込まれていくかのよう。
常人離れした肉体の強靭さに恵まれながらも、その精神面はともすれば虚弱とも表現することができ、いかにもといった人間臭さを感じさせる主人公の描写が巧みだ。
そしてあくまでも実在の人物をモデルにしているという節制が作用しているのか、人種差別に象徴される普遍的かつ文学的な課題を作中に盛り込んではいるものの、ゆき過ぎず抑えられているバランス加減も絶妙である。
読者に思索を促すことはするけれども、その本分はエンターテインメント面にあると言わんばかりに。
作品のタイプはまったく異なれど、皆川博子氏が書くクロニクルに通じる魅力がある。 |