山小屋という言葉から受けるイメージとはスケール感を異にする北アルプス界隈のメジャーな施設から、たった1人で切り盛りする避難小屋に近しい規模のところまで、各地の小屋を預かる山男・山女たちが見つめ感じてきた日々が、ありのままに綴られている。
山小屋と聞くと、シーズンに幾度も登らないライトなハイカーにとっては、足を踏み入れるのを少し躊躇してしまうような、閉鎖的な面を持つ玄人の場…という印象も強いと思うが、この書の中にはもちろんそういった昔気質の頑固者たちもたくさん登場するし、一方で、旧来の雰囲気を打破すべく、サーヴィスの拡充などに腐心する比較的若い世代の経営者たちがいることも窺い知ることができた。
中でも、トイレにまつわるエピソードが多いことは興味深かった。
排泄物は微生物が食べるし、最終的には土に還るから大丈夫では…などと浅はかにも私は思っていたが、特に登山者の多い山域では深刻な土壌・水質汚染の要因になり得るのだ、ということをしっかりと教えられた。
また、本文庫の単行本が刊行されたのはかれこれ14年ほど前、元記事が連載されていたのはさらに数年遡ることになり、執筆当時から既に状況が大きく変わっている小屋も少なくないことが注釈によって分かり、当たり前ではあるが、少しうら寂しい気分にもなった。 |