この人の作品を読むとなんだかいつも「微妙なんだよなあ…」などといった感想を抱いてしまうような気がする。
ミステリなどをよく読んでいる向きにとってはひょっとしたらちょっと物足りないんじゃないかとも感じられる、時系列に従った一本道を真っ直ぐ進んでいるかのような構成。
「OUT」然り、「柔らかな頬」然り、そこには何ら強い伏線も叙述トリックもなく、いわばロードムーヴィー風に、ある意味破滅へと不可逆的に進行する物語が綴られるのみ。
それでいて、読者を鷲掴みにして離さぬのはその筆力の成せる業。
今作は映画撮影の現場が主な舞台となっているが、私は近い立場にいる仕事柄、一層強い関心と共感を持って読むことになり、おそらく甘めの評価になっていることと思う。
正直、中盤までは若干退屈な印象もあったが、井上佐和がトラブルを運んできたあたりから俄然面白く回り出したと感じた。
業界における生身の人間のやりとりも充分にリアルで、特に新人監督が陥る煉獄などはまさにかつての我が身を思い起こさせ、身震いすらしてしまいそうじゃないか。
最後、“後日談”のくだりは個人的には不要と断じたい。 |