海洋空間佳本


黒牢城 黒牢城」★★★★☆
米澤穂信
KADOKAWA

2022.5.7 記
まさしく修羅道と思しき、苛烈な往時の武家社会を舞台としながら、現代ミステリー風の味付けを疑似連作のような形で施している。
伝えられる史実を逸脱することなく(だからこそ詳しい向きには先行きが予測できてしまうきらいはあるものの)、最初から最後までエンターテインメントとして破綻なく仕上げる技量はさすが。
思わず柳広司氏の「トーキョー・プリズン」を彷彿してしまった黒田官兵衛のチェアディテクティヴが、一体このパターンでどこまでいくのだろう…と訝り始めた絶妙のタイミングで、然るべき帰結へ向かって動き出したことを含め、ともすれば類型的と捉えられそうな流れのままで終わるのかな…という読者のネガティヴな予想を覆すかのように、後半に入ると一気にスケールを広げて物語全体を包みにかかる。
とはいえ、そう感じて高揚してきたところに辿り着いたラストは、これも史実に従っているといえばそうなのだが、個人的にはこのシーンを大団円に持ってきたことにちょっと興ざめしてしまい、あまり高い評価は付けられないのがいささか残念。

囚われの智将、狂信的とも言えるピュアな心根、虫けらよりも軽んじられる人の命…などのエッセンスを、戦国の世の習いの数々の内に散りばめつつ、確実に破滅へと向かうレールをひた走る以外に道のない将、荒木村重がもがく様を克明に描き出すことを通じて、因と果という逃れられぬ定めを巧みに伝えており、興味を失うことなく通読できる1冊ではある。





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