海洋空間佳本


告白 告白」★★★★★
町田康
中央公論新社

2008.2.23 記
小説とは物語を楽しむ娯楽であると思うが、文学はそれに加えて、自己の内面と向き合うという要素が乗っかる。
そういった意味で、この作品はとてつもなくシヴィアな文学だ。

ところどころまったく異質な部分があるので丸っきり、というわけではないが、それでも少なからず主人公の城戸熊太郎の心情に強い共感を覚えるし、自分と重なり合うところもたくさんある。
そしてこれは私に限らず、おそらく誰もがそうなのではないか。

心と言葉の不一致。
善意が空回り、裏目に出て負のスパイラルに嵌まる。
自分は他者と違うのではないかという恐れ、集団の中で感じる孤独。
そういった普遍的かつ潜在的なホラーファクターが、娯楽性を兼ね備えたプロット運びの上に見事に埋め込まれている。
あるいは屹立している。

だから、内包された自我を曝け出すことを前提にこのような文芸作品を著すことができる、そういう人は、すごい。

この作品を読んだ後、無性に“泣きたく”なった。
なぜなら、きっと私の内面も曠野だから。





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