読んでいるだけで想像してこちらの体が痛くなるような、死亡事例も含め、凄絶な滑落事故の数々が綴られている。
傍証や聞き書きでも充分臨場感は伝わるが、直に取材した当事者の声も多く収録されており、なおのこと背筋が冷える。
改めて、"ながら歩き"は厳禁であると思いを新たにした。
スマホをいじるなどもちろん論外、ウェアの脱着、バックパックやポケットの物の出し入れ、行動食や水分の補給等は、必ず安全な足場を確保した上で、立ち止まって行わねばならない。
私自身、頭では分かっているつもりだが、ついつい歩きながら行ってしまって、ひやりとする瞬間があったり…。
頻繁に訪れる近所の低山であっても、ここから落ちたら下手したら死ぬな、大怪我は免れん…という箇所はいくつもあるので、今一度肝に銘じようと思う。
また、道迷いが焦りを生んで滑落を誘発するという現象も多いんではないかな…というなんとなくの感覚についても、実際にそうだということが、著者の検証によって事実としてよく分かった。
終盤に収められた北岳のエピソードは、果たして遭難者が助かるのか助からないのか、このようなテーマのドキュメントに対して不謹慎ながら、読み物としての面白さがあった。
自然の中では人間は極めて非力な存在であるという前提を、謙虚な気持ちで常に心に留めておくことが必須である。 |