今度の舞台は中世イングランドおよびアイルランド。
上下巻合わせて1000ページを超える長編は読み応えたっぷりで、これぞ皆川博子、と唸ってしまう真骨頂。
まさにド真ん中のストレート。
ところどころにミステリーっぽい小さな仕掛けはあるものの、大筋としては大どんでん返しが待ち受けているような類のものではなく、ただただ大きく流転する時の流れを真っ向から描ききっている。
正統な筆力を以てして、物語の世界に読者をズブズブと引きずり込み、登場人物たちが送る生に否応なく共感させてしまう、その力は圧倒的で、読み始めると現実の世界に戻りたくなくなるような、恐ろしい引力を持つクロニクルだ。
結末ですべての糸が収斂するわけではなく、例えばロバート・セシルの行く末は、とか、グローニャとエリザベス女王の意思疎通についての情報が少な過ぎる、などといった若干の置いてきぼりポイントはいくつかあるが、それでも星5つの傑作。 |