まず、スタイルは典型的なクローズドサークルもののミステリー。
その上で、例えばスマホの生体認証システムをギミックに組み込むなど適宜体裁はアップデートされている。
リアルであるかと問われれば完全に首肯するわけにはいかないが、構成は緻密に練り込まれており、伏線も極めて的確、読者に対して提示された情報を総合的に勘案して、充分フェアな作品に仕上がっている。
リーダビリティーも高く、興味を失うことなく最後まで読み進めることができる良作ミステリーだが、生い立ちとして恐らくは明確に定められたゴールから逆算して敷かれたレールの上をびしっと走るかの如く執筆された小説であり、ロードムーヴィーやクロニクルのように寄り道をしながら予期せぬ人間ドラマを膨らませていく類のものではなく、つまり、トリックやどんでん返しありき、それらを活かすという至上命題を背負った作品であるから、いわゆる深み、のようなものを得ようとするのは、過大な要求と言えるのだろう。
読後感の悪さがまた、程良い味付けになっているというか。 |