「あれ、これはノンフィクションだったか? いや、やっぱり小説だよな…」と思わず確認をしてしまったが、それほど真に迫った書き出しで漆原糾の"遺稿"は綴られる。
いちいち挙げられる具体例や描写も限りなくリアルで、この著者だからこそ伝えられる老人介護の現場の空気がパンパンに詰まっている。
また、作中作という形をとり、後半に長大な"編集部註"を付記しているという構成も上手く、これが実質的な小説デビュー作とは恐れ入る。
その上で、メインディッシュとして扱われている"Aケア"は、文庫版解説で述べられているようにあくまでもグロテスクながら、この作品を通じて提起されている問題は極めて本質的かつ普遍的なものとなっている。
センセーショナルな架空の"医療行為"を通して、久坂部羊氏が投じた石は大きい。
そういった点では、帚木蓬生氏の「エンブリオ」を読んだ時に感じたものにも似ている。
さあ、どうやってこの話を結ぶのだろう…、と思いつつ読み進めていったんだが、期待外れ・肩透かしとまでは言わないものの、読者の一枚上をいく、とは断言しきれないまとめ方に終わっていたことがほんの少しだけ残念だが、それは求め過ぎというものかもしれない。 |