海洋空間佳本


虐殺器官 虐殺器官」★★★★★
伊藤計劃
早川書房

2009.1.31 記
あえて翻訳ものっぽく書いてある少しもったいつけた表現や、多発するアルファベットの略語がちょっとだけうるさく感じられる箇所もあるけど、まあ面白かった。

おそらくは数十年後の近未来を舞台に、いかにもありそうなハイテクギアの数々がまず興味を惹き付ける。
特に男子読者の。
昔の椎名誠みたい。
そして、ディテールだけではなくもちろんプロット、話の運び方も正々堂々、骨太で、よくできたハリウッド映画のよう、と言うのは語弊があるか。
米軍の特殊部隊に所属する主人公の青年を中心に物語は転がっていくわけだが、存外ストーリーはウェットで、古来よりいくつもの純文学小説が扱っているような類の、ある意味哲学的で答えの出ない命題に費やされる紙幅も多い。
誰しもが一度は思索のトンネルを通過するであろう、人生における根元的な問いに突き当たって主人公が懊悩する様は、SF作品である今作にさらなる読み応えを付加しているように思う。

いずれにせよ、構成が上手いのでストレスなく読み進めることができた。





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