日本SF大賞受賞作、という予備知識を持って読んでいったら、どこまでいっても"SFらしさ"が感じられぬまま、下巻に突入。
なるほど、SF大賞のみならず、山本周五郎賞も同時受賞という意味はそういうことか…と認識を新たにさらに深く分け入っていった次第。
まず、私がカンボジアの現代史にまったく明るくなかったので、ノンフィクションではないとはいえ、ポル・ポト前後の社会状況について大変勉強になった。
この時代、世界の至るところで見受けられた事例だろうが、大国の横暴ぶりに翻弄される小国に住む人々が被る理不尽の数々が、ここにもあった。
その前提に立った上で、質の高い小説として、悠遠なスケール感を備えつつ仕上げられている。
アルンとムイタックたちが作り出したゲーム"チャンドゥク"というギミックこそが今作をSFたらしめているわけだが、その肝心要のルールにおいて、読者の悉くを納得させるだけの論理性が整っていないように感じられ、引っ掛かり抜きのカタルシスが得られなかったのがやや残念。 |