難解かつ専門的な概念や用語を極力使うことなく、高度な数学の世界で繰り広げられていた数々の偉業や試行錯誤を実にドラマティックに綴り、門外漢の我々にも充分呑み込めるように仕上げている技術の凄さたるや。
自身も、まだ今よりは脳味噌が働いていた10代当時の気持ちなどを想起し、なぜだか懐かしいような思いを抱いた。
本書にも、数学の分野で大きな仕事を成し遂げるのは実は若い時がほとんどだ、という趣旨のことが書かれているが、なるほど、物事の本質や根元に迫る直観的な着想は経験等で補えるものではなく、可塑性が高いフレッシュな脳だからこそできるのだな、とよく分かる。
老いさらばえ、錆びついた愚脳が恨めしくなる。
フェルマーの最終定理はかくして証明に至ったという事実は分かったが、著者も述べているように、それは20世紀のテクニックと知識を駆使した結果で、17世紀にフェルマーが考え付いたと主張するプロセスとは間違いなく異なる。
証明が成立したとはいってもその謎はまだ残っているし、これも書中で披瀝されているが、まだまだ数学には一見単純そうでも未証明の予想がいくつもあるという。
数学も物理学も天文学も哲学も生物学も文学も、突き詰めていけばその根っこは実は1つにつながっているのではないかという気がしているが、そんな世界で純粋な謎に挑み続ける学者たちの生き様は本当に価値あるものなのだと改めて感じる。
最後に、訳者の仕事も相当なものだと思う。 |