海洋空間佳本


エンターテインメントの作り方 エンタテインメントの作り方」★★★★☆
貴志祐介
KADOKAWA

2015.8.28 記
クリエイターにとって、評価されるべき尺度はその作品の出来以外、何物でもないはずなので、こうして作品を世に送り出すまでの思考プロセスを、例え洗いざらいではないとしても明かすという行為は、本来とても恥ずかしいことなのだろう、と容易に推察できる。
またそれは、秘すべき心裡を明かすと同時に、自分が飯を喰っている業界のライヴァルを増やしかねない、いわば敵に塩を送るような行動でもある。
それを屈託なくしてしまうところに、貴志祐介氏の作家としての漲る自信を感じる。

読んでみるとそこには当然、誰でも高品質な小説を書き上げることができる魔法のような技が書かれているわけではなく、言ってみれば当たり前とすら思える、地道で堅実な手法が平易に解説されているに過ぎない。
文芸作品を仕上げるという、どちらかといえばアーティスティック、エモーショナルな作業のようにも捉えられる分野において、理論的かつ体系立てて教則本を整えた著者のこの仕事は、いろいろな意味で本当に凄いものだと思う。
一方で、小説家を目指す人々に向けた理屈を説く教科書然とした指南書、という立ち位置に対する本能的な違和感も依然残りはするけれども。

自分の能力の多寡は脇に置いといて、これを読んでいると自分も小説を書いてみたくなるし、また書けるんじゃないか、と錯覚を覚えてしまいそうになる。





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