海洋空間佳本


永遠の0 永遠の0」★★★★★
百田尚樹
講談社

2010.10.4 記
いささか美しいところばかりを際立たせ過ぎているようなイメージも受けたが、逆説的に言うならば、それほどきれいに纏められた秀作であると感じた次第。
作中に描かれている特攻隊にまつわるディテールや、具体的な戦記がどれほど真実に迫っているのか、それを判断することは私にはできないが、十二分に取材と吟味を積み重ねているであろうことは推察できる。
そしてそれは、特に物語序盤の井崎源次郎へのインタヴュー部分とクライマックス、祖父の大石賢一郎の独白シーンに色濃く凝縮されているように、読む者の純粋な感動を惹き起こすほどに高次に昇華されている。
現代に生きる主人公である青年とその姉が抱える現実的な問題を絡めるなど、特攻隊の存在意義を問うことのみに特化しない多角的な構成になっているが、それもまたうるさ過ぎないほどに抑えられた、効果的なヴォリュームだと思う。
決して読者の想像力をブチ抜くようなエキセントリックな作品ではなく、むしろ展開についてはベタに入る部類だが、その直球勝負が心地よい。





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