海洋空間佳本


出口のない海 出口のない海」★★★★★
横山秀夫
講談社

2009.5.8 記
今さらながら拝読したが、漠然と予想していたよりも格段に良かった。
ひょっとすると舞台設定そのものは取り立てて個性的というわけでもなく、どちらかというと凡庸と呼べる部類に入るかもしれないが、物語が進むごとにどんどん求心力を増していく。
いや、あるいは装置が分かりやすいからこそ、読者ものめり込みやすいのだと言うこともできるだろう。
ベタな展開、そして“魔球”などというやや奇天烈なギミックを織り交ぜながらも、主人公・並木を始めとする心裡描写が巧みなので、スーッと感情移入することができた。
当時、特攻兵器に乗り込むことを決意して死を覚悟した若者たちの本当の気持ちを感得することは私には決してできないし、また著者の横山秀夫氏とて、真に理解されていると断言することはできないかもしれないが、それでもそんな彼らの心の動きを慮ってみようという気持ちにさせてくれるし、また、自分がもしも彼らの立場に置かれたらどうなのだろう? という時代を超えたプリミティヴな自問を投げかけてくれる小説だった。
自ずと作品世界に入ることができるから、彼らが涙する場面では読んでいるこちらも目頭が熱くなる。

「出口のない海」、タイトルがこれだけピタリとハマる小説はなかなかないのではないだろうか。

1つ、並木の最期についてはいろいろな所見があることと思う。





戻る

表紙