まったくもってハチャメチャな書き出しなわけだが、それでもあっという間に読者をゴリッと世界に引き込む圧倒的な筆力に改めて感じ入る。
並の書き手なら、とっ散らかってハチャメチャなまま終わってしまう設定である。
作中では、これに似たようなヴィデオゲームはなかったのでは、という風な表現が見られたが、「伝説のオウガバトル」をつい思い浮かべた。
「クリムゾンの迷宮」よろしく、RPG風な味付けの世界観だが、今回は“将棋”がメインモチーフとして採用されている。
そして軍艦島という舞台がまた、その将棋をベースとする等身大ウォーゲームとピッタリ適合し、なんとも言えず不気味ながらも蠱惑的な雰囲気を醸し出している。
ただ、エンターテインメントとしては十二分に楽しめる作品なのだが、その紙副の割に濃度は薄い。
将棋の名人戦になぞらえてしまっているので仕方ないが、4局先取の7番勝負はさすがに冗長だろう。
もちろん貴志氏の書くものだからどの局も読み応えがないというわけではないものの、一方でその必然性も感じられない。
期待値が高い著者だけに、終わらせ方にも正直もうひとつ、ガツンとくるものが欲しかったのが本音である。 |