昭和の前半、第2次大戦前後の日本を舞台とした短編が8編。 貧困や不具などといったハンディキャップを抱えた者、あるいはそうでないけれども年幼い故に魂の定まらない者たちをそれぞれ登場させ、人として生きる以上誰もが大なり小なり背負っていく様々な業を、この時代特有の、気怠さと活気が入り混じったような空気を巧みに活かしながら描いている。
どちらかといえば短編集はあまり読まず興味もそそられず、また詩というジャンルを愛でる才にも恵まれない(各作品、実際にある詩や句を随所に取り込んでいる)私だが、この一冊は、前半こそ少し退屈を感じた作品もあったものの、特に終盤に収められた一群には戦慄を覚えるのを禁じえなかった。
幻想文学、としばしば評される皆川作品だが、これは紛れもなくホラーだ。
ホラー、と堂々と銘打たれているにも拘らずちっともそうではない小説も近年多いが、この書が持つエッセンスはホラーに他ならない。
岩井志麻子作品のテイストとひょっとしたら少しだけ似ているかもしれないが、こちらの方が怖い。
そして美しい。
「竜騎兵は近づけり」が醸し出す異様な緊迫感、「妙に清らの」の、あまりの凄絶さが美にさえ昇華しているかのような終幕の情景。
そして「遺し文」のラストシーンもまた、ともすれば哀しく陰惨なだけの結末になりかねないところを、まるで決して触れることを許されない神性を秘めた造形物であるかのごとく、遥かなる高みまで押し上げている。
優れた感性を持つ作家が拵えた映像化作品も観てみたいような気がした。 好きな作品だけをとればもちろん文句なく星5つだが…。 |