人間ではない生物をその主軸に据えた年代記というものを、初めて読んだ。
古川日出男は、最高に“かっこいい”小説を書く。
1行1行を追う目の動きが、1ページ1ページを繰る指の働きがじれったく思えるほど先へ先へと読み進めてしまうが、かといっていわゆる傑作ミステリーたちが包容する謎が溶解した時にもたらされるようなカタルシスが訪れるわけではなく、「ああ、こうなっていたんだ!」とか、「うーん、なるほど、そういうことか…」とかいった、仕掛けられた巧妙な伏線に対する驚嘆があるわけでもない。
でも、最高に、かっこいい。
極めてシンプルな、それでいて間違いなく卓越した感覚によって選び抜かれた日本語の羅列が創り上げている、装飾。
矛盾しているような表現になってしまうが、ものすごく簡潔な言葉と文章によって、ものすごく華美に豪奢に物語が彩られている。
これだけの日本語の組み合わせを構築してしまうセンスは、ちょっと見受けられない。
そして物語は、何ら珍奇な仕掛けや小賢しいテクニックなど見当たらない、まさに大きな河。
うねり蠢き、蠕動する大きな運命の流れ。
ゆっくりと、超然としながら、かつ、少し目を離すとたちまち置いてゆかれるような、巨きな奔流。
「お前は数など、数えない。」 脳天に突き抜けるかっこよさ。 |