海洋空間佳本


ベルファストの12人の亡霊 ベルファストの12人の亡霊」★★★★☆
スチュアート・ネヴィル
武田ランダムハウスジャパン

2011.6.7 記
タイトルから短絡的に連想されるようなホラー色やオカルトの要素はない。
アイルランドとイギリスとの間に横たわる根深い政治的な背景については、もちろん熟知していればそれに越したことはないが、「ゴルゴ13」を読んで理解できるほどの最低限の知識と類推力さえあれば、充分に物語は読み込める。

これは映画の原作か? と勘違いするほどにダイナミックな描写は適度にリアルで、終盤のアクションシーンも決して陳腐に陥らずに最後まで引っ張る。
何より訳文も非常にスムーズ。

惜しむらくは、うーんやっぱりか、と感じざるを得ない、ハッピーエンド寄りのシンプルな終わらせ方であろうか。
このへんも映画っぽいといってしまえばそうなのだが、おそらく大多数の日本人は、最終的には直接の殺人行為者たる主人公が最大の責めを負い破滅に向かう…、といった類の結末の方がシックリきたのではないだろうか。
悔い改めれば慈悲の心で赦される、根底を流れるそんな価値観に、文化の違いを見た気がする。
テロリスト版「クリスマス・キャロル」?





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