海洋空間佳本


ばけもの好む中将 ばけもの好む中将 - 平安不思議めぐり」★★★★☆
瀬川貴次
集英社

2016.8.12 記
設定は面白く、文章も上手くてテンポがいいので、あっという間にページは進んでいったのだが、最初の小編「仁寿殿の怪」、そして次の「角三つ生いたる鬼女」を読んだあたりでは、正直、プロットそのものにそれほどのフックを感じることなく、ただ口当たりがいいだけの連作集かな、と少々残念に近い思いを抱いていた。
しかし、後半に入るとそれぞれの独立した小話が有機的に絡み始めてきて、ああ、なるほどこういうことだったのね、と著者の技術に気付くことができた。

容姿端麗で頭脳明晰、だけどどこかエキセントリックな面を持つ主人公と、どちらかというと凡庸な部類に入るキャラクターで、何かとその主人公の振る舞いに巻き込まれてしまう相方…という、ミステリーにおいては古今東西問わず、定番かつ鉄板のコンビネーションが、現代と違い魑魅魍魎が当たり前のように跋扈していた平安の世の夜を舞台に活躍を繰り広げる様はとても痛快である。
科学技術の発達した時代の物語でないからこそ、もちろん展開にかなりの制限は加えられるわけだが、逆に現代を舞台とする小説ではあり得ない前提や描写も可能になることがある、という面白さにも改めて気付かされた。





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