海洋空間佳本


アラシ アラシ」★★★★☆
今野保
山と渓谷社

2024.9.29 記
冒頭の"クロ"の巻から犬好き、動物好きとしては感情を揺さぶられ、読んでいるうちに自ずと保少年に感情移入、ともすれば同化してしまい、どっぷりと作中世界を味わうことになる。
そして、続いて登場するアラシ、タキ、ノンコも含め皆に、"これぞ犬本来の姿なのだろう"と深く頷かされる。
太古、人と犬との関係が始まった原初の絆がオリジナルの形で残るぎりぎりの時代であり、世の中だったと言えるのではないだろうか。
リードに繋がれるなどという発想すらなく、一旦山に遊びに行けば数日戻らないことも多々、本能の赴くまま山犬と交わり獣と争い、その一方で極めて高い知性を備え、必要とあらば命を賭して人を守る献身性を併せ持つ…巻末の解説で角幡唯介氏が述べられているように、現代の日本社会においてこのような形態で犬と暮らすことはもはや不可能ではあるが、ここで描かれる関係性こそが本質であり神髄なのだ、と強く感じざるを得ない。
人間社会の進化は果たして"進化"なのだろうか?

「かつて、そんな犬らしい犬たちが人と共に逞しく溌溂と生き抜いたことを、折りにふれて想起していただければ幸いである。」

「私がダムや林道のない日高に憧れるのと同じで、このような人と犬との関係ももはや夢幻となってしまった。
 〜(中略)
 それは私たちが自然を喪ったからである。環境のなかにある自然だけでなく、心のなかにある自然を喪ったからである。」





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