海洋空間佳本


2010年代SF傑作選1 2010年代SF傑作選1」★★★★☆
大森望、伴名練 編
早川書房

2020.5.2 記
大森望氏による序文を初めに読んだから、という先入観も多少あるかもしれないが、もちろんすべてがここ10年以内に書かれた作品であるにも拘らず、全編を通してどっしりした、どこか懐かしささえ覚えるようなヴェテラン感に満ちたアンソロジーだった。
上田早夕里氏の「滑車の地」には、椎名誠氏の古典的名作「水域」の系譜に連なっている様が見られたし(さらに辿ればオールディスの「地球の長い午後」だが)、あるいは飛浩隆氏の「海の指」も深層の出発地はその辺りにあるのかもしれない。
仁木稔氏「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち」は、未読の連作集に手を伸ばす動機に大いになり得る魅力がある。
掉尾を飾る長谷敏司氏の「allo, toi, toi」については、SFの括りに留まりながら古今問わずに普遍的かつ根源的な命題に迫っており、その意気も含めて読み応えは充分だが、如何せんその言語化が著者のみに深い理解が可能であるような書かれ方に見え、不特定多数の幅広い読者が共感できる語彙を選択すればなお良かったのに、とちょっと残念。
設定そのものからしてイロモノ的な田中啓文氏「怪獣惑星キンゴジ」も面白く読んだが、「星間旅行や移住が可能な時代に、監視カメラが暗闇では映像を撮れないっておかしいいやろ!」と真面目にツッコんでしまったのは無粋か(笑)?





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