この人が創り出す世界は本当になんと形容するのがふさわしいのか分からないが、とにかく凄い、素晴らしい、好きだ。
少し前に皆川博子氏の名前に惹かれて「怪しき我が家」という短編集を読み、収められたいくつかの小品に対してプロフェッショナルの仕業らしからぬそのグダグダぶりに若干の憤懣を抱いたのだが、そんなことがあったから、というのは津原泰水氏に対して甚だ失礼に当たるとしても、やっぱり比べるべくもなく、掲載されている全作品が職人、あるいはアーティストの仕事して高次に昇華されている。
虚脱と倦怠にも似た、しかし不思議と爽快を伴う読後感。
創り込み具合がまさに過不足なく、完璧とも思われる。
フィールドも、氏の得意とするSFテイストが「テルミン嬢」には全面に溢れ、同じく手練たる幻想世界の創造主としての力量は、「五色の舟」、「微笑面・改」、「手」といった作品で確認できる。
「キリノ」、「クラーケン」、「YYとその身幹」などにおいては、一見何気ないようで、その実とんでもなく恐ろしい日常の延長が垣間見える。
そして何より最後に置かれた「土の枕」という物語こそがこの短編集の文字通り重しか。
これで傑作揃いの小品集が、ビシッと完全に締められた。 |