スーパープレイヤー列伝
Player File No.5 2003.3.21 (2005.6.7 データ更新)
※2005シーズン終了後に引退
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Reggie Miller レジー・ミラー
ガード
201cm 89kg
1965年8月24日生
1987ドラフト1巡目11位指名
所属チーム:インディアナ・ペイサーズ
出身校:カリフォルニア大ロサンジェルス校(UCLA)
主なタイトル:スリーポイントシュート試投数・
成功数NBA史上1位
15シーズン連続スリーポイントシュート
100本以上成功
フリースロー・パーセンテージ1位4回
オールスター選出5回
…など |
“もしNBAにフォーポイントシュート(4点シュート)というものがあるならば、
そのチャンピオンはレジー・ミラーだろう”という喩えがあるように、
NBA屈指のピュア・シューター。
とにかくそのシュート力、そしてシュートレンジの広さは凄まじく、
実際にスリーポイントラインの遥か後方からシュートを決めることも稀ではない。
線も細く、黒人プレイヤーとしては決して走力、ジャンプ力などの
アスリート能力に恵まれているとは言い難いミラーだが、
彼が特に優れているのは自らをノーマーク、フリーにする能力。
試合前の練習などを見ていると良く分かるが、
NBAというトップステージでプレイしている選手たち、
特にシュートを得意としているようなプレイヤーは、
スリーポイントシュートといえどもディフェンスのプレッシャーがない状態では、
そのほとんどをネットに沈めることができる能力を持っている。
言い換えれば、バスケットボールというスポーツは、
いかにノーマークの味方を作り出し、
そのプレイヤーにシュートを撃たせることができるか、
ということを競うスポーツでもある。
レジー・ミラーは味方のスクリーン*1を非常に上手く使い、
フリーになることにかけては天才的なプレイヤーなのだ。
さらに、ディフェンスを見事に振り切ってボールをもらった後、
シュートを放つまでの間隔がミラーはものすごく短い。
普通、パスを受けたプレイヤーがシュートに至るまでには、
ボールをもらう→セットしてゴールに狙いを定める→シュート・リリース、という過程を踏む。
彼の場合、この2つ目のプロセス、“セットしてゴールに狙いを定める”
に費やす時間が恐ろしく短いのである。
印象としては、もうボールをもらった瞬間にはシュートしてるって感じ。
振り切られたディフェンダーがあわててシュート・ブロックに跳んでも到底間に合わない。
恐らく、パスをもらいながらすでにバスケットをロックオンしているのだろう。
そしてミラーがスーパースターとして認識されているさらなるエッセンスは、
まるで神がかったかのような、異常ともいえるクラッチタイム*2での強さ。
彼が出ている試合では、終盤の数分間は“ミラー・タイム”、
彼のためだけの時間帯だと評されているほど。
今でも強烈に印象に残っていて、忘れられない試合がある。
1994年のプレイオフ、ペイサーズvsニューヨーク・ニックスの第5戦。
第3クォーターを終えた時点でニックスのリードは12点、ペイサーズの敗色は濃厚。
しかし、ここからのレジー・ミラーはまさに神か悪魔か、
ニックスの本拠地、マディソン・スクエア・ガーデンを
深い深い沈黙の底に叩き落すことになる。
何とミラーは第4クォーターだけでスリーポイント5本を含む25点を叩き出したのだ。
撃つシュート撃つシュートすべてがまるで悪魔にでも魅入られたかのように、
ことごとくゴールネットに吸い込まれていく。
そして当然のように、ペイサーズは大逆転勝利を収めた。
極度に集中力が高まって、手が付けられない状態になったことを、
英語で“in the zone”というが、それがまさにこの時のレジー・ミラー。
十数年NBAを観続けているが、
個人的に後にも先にもあれほど興奮を覚えた試合はなかったなぁ。
他にも翌年のプレイオフ、同じくニックスとのゲームで、
試合終了間際のわずか20秒足らずで8ポイントを上げ、
これまた奇跡の大逆転を演出したりと、
ミラーのクラッチ・シューターぶりを表すエピソードは枚挙に暇がない。
今でこそ第一線の活躍の場を若手に譲り、
キャリアの終焉に差し掛かりつつあるミラーだが、
全盛期のあの頃は本当に人間には見えなかったものだ。
それから忘れてはいけない彼のもう一つの特徴は、“トラッシュ・トーク”。
トラッシュ・トークとは、直訳すれば“ゴミの会話”、
つまり何の役にも立たないたわいのない言葉のこと。
普通NBAではそれは、相手プレイヤーに対する挑発的な発言のことを指す。
プレイをしながら常に相手に向かって言葉を吐き続ける
トラッシュ・トーカーとして有名な選手は何人かいるが、
その中でもミラーは代表的なプレイヤーとして数えられる。
詳しくは分からないがその言葉の内容は相当陰湿でイライラさせるものらしく、
2人とも若かったとはいえ、あの神様、マイケル・ジョーダンをキレさせ、
大乱闘を巻き起こしたのはこの男ぐらいだろう。
さらにさらにミラーのアグレッシヴさをよく表しているのが、
彼はアウェイでブーイングを浴びれば浴びるほど
そのパフォーマンスを最大限発揮する、ということ。
“ホームコート・アドヴァンテージ”という言葉があるように、
普通スポーツはホームで戦っている方がより有利なものだ。
しかしこの悪魔にはそんな常識は通じない。
前述の、超人的活躍を見せた1994年プレイオフのニックス戦もアウェイ・ゲームだった。
マディソン・スクエア・ガーデンのコートサイドの特等席にいつも陣取っている、
熱狂的なニックス・ファンである映画監督のスパイク・リーとも、
激しいトラッシュ・トークの応酬を演じていたものだ。
ただ、プライヴェートではこの2人は仲良しで、一緒にCMに出ていたりします。
ちなみにレジーの姉のシェリル・ミラーは、
アメリカ女子バスケットボール界の伝説的スーパースターで、
今はNBA中継のレポーターとして活躍している。
また蛇足ではあるが、このレジー・ミラー、私生活ではツイてない男で、
自慢の豪邸は放火で全焼したり、
元モデルの奥さんとは離婚したりと散々なのであった…。
*1 スクリーン…ボールを持っている選手をフリーにするため、
その選手のマークについているディフェンダーをブロックする壁の役目を果たすプレイヤーのこと。
またそのプレイ、“スクリーンプレイ”自体のことを略してこう指すこともある。
*2 クラッチタイム…試合終了間際(広義には各クォーター終了間際も含む)の、
勝敗の行方を決する時間帯のこと。
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