海洋空間佳本


ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実 ヤラセと情熱 水曜スペシャル『川口浩探検隊』の真実」★★★★☆
プチ鹿島
二葉社

2023.3.26 記
思えば、ルポルタージュの題材としては格好の象徴でありながら、意外やこれまで"川口浩探検隊"について著された書物や記事、リポートは多くない。
毎月購読していた雑誌「ムー」を隅まで読み尽くし、五島勉氏の「ノストラダムスの大予言」や中岡俊哉氏の「恐怖の心霊写真」の世界に没入していた当時の私は無論、「水曜スペシャル」の当シリーズの放送を、もはや信じるとか信じないとかの次元でなく、ありのままの真実として捉えて文字通り一心不乱に視聴していたわけで、まず以てその時点で本書に対するスタンスには高い下駄が履かされた。

もちろん、双頭の蛇ゴーグは作り物であり、類人猿バーゴンも人が中に入った着ぐるみであり、ジャングルも洞窟もすべてスタッフが事前にロケハンと仕込みを済ませた舞台であるということが、当事者たちへの丹念な取材と共に改めて丁寧に解説されている。
ここまでは極論すれば中身を読まずとも内容はある程度推測可能だが、実際に読んでみると、エンタメに徹しきった当時の関係者たちの仕事ぶりたるや、少なくとも私の想像など遥かに超越してぶっ飛んでいたことが分かり、心底たまげた。
映像には映らないところ、オンエアには乗らないところで、スタッフは毒蛇を捕まえ、断崖絶壁を下降し、現地の部族に身柄を拘束され生命の危機に瀕している。。
著者のプチ鹿島氏は辺境作家の高野秀行氏にも取材しているが、高野氏が「一番ヤバい時っていうのはカメラが回せないときなんですよ」と、見事に本質を言い当てている。
そのカメラが回っていないところのプロセスも含め、旅程を余すところなく綴って読み物に昇華しているのが例えば高野氏の著書であったりするが、番組はそのリアルな裏側を潔く捨て、"見つかったら謝ろう"精神で以てあくまでもエンタメとして造形していかなければならないわけで、これはなんたる業、宿命か。
「スリランカのときは、向こうでヤバいものがあまり撮れなくて。で、スリランカからの帰り道にタイに寄って、この洞窟を使ったんです」
ヤラセだ過剰演出だと、最近でもバラエティー番組や情報番組が槍玉に挙がる事例はあるが、国境を超えて移動しそれっぽい"ニセモノ"を接ぎ合わせるなどという大胆な発想はさすがに21世紀に生き残っているはずはなく、有り体に言って、スケールの桁が違う。

最終章は一転文体を変え、放送作家である鵜沢茂郎氏のインタヴューが独白スタイルで収められているが、その内容は圧巻という他ない。
コンプライアンスなどという言葉がなかった昭和のテレビ界に禍々しく満ちていた傲慢さを存分に放ちながらも、今のテレビに対する悪辣な批判はズバリと核心を貫いている。
リテラシーとは? 今更ながら考えずにはいられない。

「世の中で言う、『数字を取るためにやむなくやりました』とか、『チェック体制が甘かった』とかっていうのはほとんど嘘だと思ってる。」

最後に一つ、"ジャイアントトロピガルガー"という名称が幾度か出てくるが、正しくは"トロピカルジャイアントガー"。





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