海洋空間佳本


産霊山秘録 産霊山秘録」★★★★☆
半村良
集英社

2014.2.11 記
表紙のイラストを見た時には、一瞬読むのをやめようかと思ったが、諦めてしまわなくてよかった。
章は戦国時代から始まり、以降、江戸、幕末、昭和と下っていく。
中盤辺りまで読み進めるまでは、あまりに奇抜なごった煮感にいささか面喰らい気味だったが、終いまで読めば物語がきちんと一つの連環のなかに収まり、完結していることが分かり、カタルシスを得る。
とにかくスケールの大きな着想によって描き切られた作品だ。
歴史小説、伝奇物としての側面が、SFという輪郭で包まれているような。
また、作品が発表された1973年という当時の時代性も強く映し込まれている。
高度経済成長が終わりを迎えようとしており、その代償として、公害等の様々な問題も広く表面化していた頃。
国外に目を転ずれば、宗教観の対立と石油利権争いに端を発する中東戦争はお馴染みとなり、また完全に泥沼化していたヴェトナム戦争から生まれた厭戦ムードが伝播して、ヒッピーに代表されるライフスタイルが若年層の間に沈殿しつつあったであろう。
そういった時代背景も合わせてこの小説を懐古してみると、より理解は深まるのではないだろうか。





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