海洋空間佳本


風が強く吹いている 風が強く吹いている」★★★★★
三浦しをん
新潮社

2012.12.26 記
年の瀬に読むには最適な1冊じゃないだろうか。

はっきり言うと、マンガじみていてそのサクセスストーリーにリアリティはない。
こんな風に"箱根駅伝"に出場できてしまうなんてことは絶対にあり得ない。
でもそれなのに、「もしかしたら…」と読者に思わせてしまうような、そんな感動が作品を貫いている。

統率力に秀でたリーダーがいて、力はあるけど脛に傷持つ若者がいて、分かりやすく嫌味な雑魚キャラがいて、そして聳え立つ壁のような敵ボスがいる。
まさに玉石混交集団がエリート連中に混じって箱根出場を目指して日々練習を重ね、そんな学生たちの日常には恋愛も絡んできて、ついには栄光の大団円に向かって…。
本当に一昔も二昔も前のドラマか何かのように、設定だけ見るとあるいは陳腐極まりないものになってしまいがちな、およそクリエイターが手を出し難そうな舞台だと思うんだが、三浦しをん氏はそこに真っ向から取り組み、比類なき傑作に仕上げた。
いざレース本番に入り、そこからは10人それぞれのバックグラウンドと内的世界を絡ませながら走りを具体的に描写しているわけだが、ともすれば相似した展開がただ10回繰り返されるだけ、という陥穽に嵌りがちなところ、そこに至るまでの地道な物語構築の積み上げと卓越した筆力によって、読む者の涙を呼び起こす流れを見事に仕上げている。
要所での、登場人物のモノローグというか、ポツリと漏らすワンセンテンスがたまらなくいい。





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