海洋空間佳本


神のふたつの貌 神のふたつの貌」★★★★★
貫井徳郎
文藝春秋

2005.8.8 記
デビュー作、「慟哭」を、一晩中一気読みを強いられてしまった貫井徳郎の、それを凌ぐと私には思われる独特な一冊。

彼が得意とする、いわゆる叙述ミステリーの常套とも言うべきプロット、手法、テクニックに則りながらも、その言葉のつなぎ方とテンポが実に巧みで、これも一息で読まされてしまった。

中でもこの作品のユニークさを高めているのが宗教の絡め方。
その小説にキリスト教的な世界観を濃く反映させた作家としては遠藤周作あたりがよく知られていると思うが、彼の作品とはあるヴェクトル上において対極にある、敬虔なクリスチャンが読んだらあるいは気分を害するのではないかと思われるような物語だ。

自らの信ずる宗教的価値観にのみすべての判断基準と拠り所をゆだね、結果的に現実社会においてはとても常識にそぐわない凶行を重ねてゆく典型的な狂信者。
が、その狂信ぶりが単なる狂信に終わるのではなく、最後にはとことんまで突き抜けてしまっているところが、すごい。
貫かれた狂信。
狂信も貫かれれば一種の恍惚をまとった聖心になりうる?
それぐらいラストシーンは、美しい。





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