海洋空間佳本


インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー」★★★★★
皆川博子
早川書房

2022.1.6 記
また、大傑作が一冊生まれた。

独立戦争真っ只中の北米を舞台とし、アイデンティティの狭間に漂い翻弄され苦悩する若者の視点を中心に描かれる、"人間"の姿。
メタとしての不具の者、異形の者を巧みに登場させる手練も相変わらず。
迸出する歪んだ愛をただ跳梁するに任せ、どうすることもできない歪んだ者たち。
他者どころか自身についてさえ理解が及ばない、それが"人間"という存在なのだ、と改めて気付かせてくれた。

開かせていただき光栄です」から始まる、いわゆる"バートンズ"シリーズの3冊目、完結編として位置付けられた作品だが、万人にとって読み易いエンターテインメントとして仕上げられていた1作目と比し、次作の「アルモニカ・ディアボリカ」、そして今作と、回を重ねるごとに世界観は重厚感を増していき、それに伴って物語のシリアス度合も深くなっていった。
ともすれば序盤を読んだ限りでは、"これがバートンズシリーズである必然性はあるのかな"、と思わないでもなかったが、スリルを保ったまま平仄を残らず合わせ、かつシリーズとしての整合性をきっちり揃えてくる技量は、本当に凄まじいばかり。
ラスト近く、すべてが一点に収斂し、エドを救出した場面から俄かに高まり張り詰める緊迫の糸はなんだ、氏ならではの神がかった構成力に、背筋が一瞬冷えた。
齢90を超え、この世界を脳内に構築する異能に、心底感服する。

彷徨うアシュリー・アーデンの物語であると同時に、まさしくこれは、"バートンズ終焉の物語"だ。

まったくの蛇足ながら、個人的にはディーフェンベイカーさんが出てこなかったのが少し残念。

「私は滅ぼした者の仲間であり、滅ぼされた者の仲間だ。」
「何種類の仮面と鎧が必要なことか。」
「異質のそれらが溶け合って一つの存在となる、というふうにはならないのだな。明瞭に二分され半分を捨てなくてはならないのか。」





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