海洋空間佳本


生ける屍の死 生ける屍の死」★★★★★
山口雅也
東京創元社

2006.4.18 記
前半はイマイチ気が乗らず、チビチビと読み進んでいっていたわけだが、中盤に差し掛かったあたりから俄然物語が回り出して、ページを繰る手ももどかしいほどの状態で読了した。

“死者が甦る”なんてイマドキ二流のパニックムーヴィーでも採用しないような舞台装置がそもそも示されているんだけど、そんな荒唐無稽でともすればナンセンスとも思われがちな設定にここまで整合性を与え、“フィクションとしてのリアリティ”を備えた物語を構築するとは、まさに驚嘆の極み、そしてその後に、このような書物に巡り会うことができた僥倖に感謝するのみである!

我々が生きているのと同じ世界を舞台にした“普通の”ミステリーのジャンルに、まさに神業のようなテクニックで“死者が甦る”という因子を完璧に埋め込んでいる。
物語に次元を1つ余分に与え、それが邪魔になるどころかそのおかげでより奥行きのある世界を創り上げていると言えばいいのだろうか。
巧い言葉が浮かばないけれど、とにかく、既存のゲームに新しいルールを1つ追加して、そのゲームをさらに楽しく進化させている、って感じ。

こりゃマンガチックな小説だな、と思っていたら段々とストーリーはシリアスに、そして内包していたいくつもの謎を読者にこれでもかと提示し始め、気が付けば数え切れないほどの大小の伏線が張られており、ガシッと気持ちを鷲掴みにされたまま見事な大団円。

まったくの余談ながら、英米文化に通じているらしい著者の薀蓄や英語を使った言葉遊びも一興。

「作家の創造性のすべてはデビュー作に凝縮されている」という言葉を聞いたことがあるけれど、この本を読んでそんな思いを新たにした。





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