海洋空間佳本


fragmentsofhirokominagawa 皆川博子の辺境薔薇館」★★★★★
皆川博子 他
河出書房新社

2019.7.4 記
皆川博子氏の作品世界に耽溺する身にとって、垂涎の宝物がぎっしり詰まったおもちゃ箱のような、とてつもなくゴージャスな本だこれは。
改めて選り抜かれた珠玉の短編に加え、単行本では読むことのできないエッセイ、さらには米寿を超えられた皆川氏のこれまでの歩みの一端が濃く窺い知れるインタヴュー記事など、もちろん皆川氏から発せられた言葉もたっぷり収められている他、皆川作品あるいは皆川氏自身のキャラクターが生み出す底なしの沼地にどっぷりとハマり込んでしまった同業者であるプロの作家や編集者たちによる、あまりにも正鵠を射過ぎた賛辞がこれでもかとばかりに並んでいるのだから。
これまで、あまりこのようなファンブックめいたものに手を出した経験はないが、そのような類書とはまったく異なる次元に立つ書籍だろうと思う。
私は2004年刊「薔薇密室」で初めて皆川博子という作家を知り、それ以来もうずぶずぶのフリークを自認するが、歴僅か15年の私ごときを無論遥かに凌駕する先達たちの称賛を読むのはただただ気持ち良く、皆川氏の世界に対する憧憬と未読の作品に対する思慕を悉く強化するばかりだった。

小説に限らず、クリエイターの手による作品を味わう場合、私見だが、大抵はその作者自身のパーソナリティーにまつわる情報というものはどちらかというと鑑賞の助けになるというより、邪魔になる。
作品には感動したのに…とややがっくりくるケースも少なくはないが、皆川氏に関してはまったく逆で、なるほどこの時期の境遇があの作品を生んだのか、作風の変遷に至る裏にはそんな事情があったのか、へ〜あの小説の執筆に向けてそんな下準備を、などなど、それぞれの作品を理解する、あるいは感じる上において、邪魔どころか大変有益な知識となってくれる。

私自身が単に寡聞だったに過ぎないわけだが、皆川氏にハマり始めた最初の数年間は、なぜ皆川博子の扱いはこんなにも小さいんだろう、作品の露出が少ないんだろう、と意味不明の義憤に少々駆られていた。
既に直木賞や柴田錬三郎賞、吉川英治文学賞などを受けられていたから、もちろん私が出遭った時点で高名な作家であったことは間違いないが、だとしても格別の本好き以外もほとんどが知っている、というところまでではなかったように感じる。
やはり転機は2011年の「開かせていただき光栄です」になるのだろう。
あの作品で弾けて以降、明らかに読者層は広がり、一般紙や雑誌などでお見掛けする機会も増えたように思う。
90歳間近(!)になられても精力益々盛んに筆を進められているはずの皆川博子氏、まだまだ末永くご活躍していただきたいと、心の芯から祈念する。





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