海洋空間佳本


ぼぎわんが、来る ぼぎわんが、来る」★★★★☆
澤村伊智
KADOKAWA

2020.6.28 記
今時珍しいなと思うぐらい、正統かつ古典的なホラー小説ではないか、というのが第一印象、特に前半。
これだけでまず嬉しくなる。
これがデビュー作のはずだが、新人離れした筆運びで、実に真っ当に怖がらせてくれる。
電話の向こうの声の主が実は…というギミックは、確か舞城王太郎氏の「深夜百太郎」中の小話でも読んだ記憶があるが、安定の攻撃力を持つ。
ホラーとしての強固な土台が支える物語に、現代の家族の在り方に関する問題という、リアルでシリアスな要素を上手く絡ませて、2010年代の作品としてもしっかりと成立させている。
さらに私が個人的に好きな民俗的目線も採り入れられているから、よりずぶずぶとハマり込むことができた。

と言っても決して手放しで礼賛というわけではなくて、例えば序盤で思わせぶりに比嘉琴子が姿を現さない理由に関してはまったくスルーされているし、クライマックスの戦闘シーンはただひたすらの力技、ゴリ押しするのみで、膝を打つようなカタルシスは残念ながら得られない。

ちょっと尻すぼみの読後感はあるけれども、トータルでは少なくとも「ずうのめ人形」、「ししりばの家」という続編に手を伸ばすだけの魅力は充分の良作だった。





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