海洋空間壊死家族2



第77回

電線マン  2005.8.18




ひなたの子逝きて
ないはらいてしめたらいて
臓腑たぐれしぶしさせたまひて見るに
瀝させみつるよ
おっとっとっとっ
わぐれしめらせつるぬるよぉーぉい



その昔、大学1年の時に、知り合いの電気工事屋から入学祝いでいただいた電子レンジがこのあいだ機嫌悪くなり、苦節13年、とうとう廃棄処分となることにあいなった。
私はモノ持ちがいい方で、同時期に貰った炊飯器、同時期に買ったトランクスなぞはいまだ活躍中なのであるが、いかんせん家電というものにも時代からの要請というものがあって、買替え行動を電気屋とか来訪者とかにせきたてられ、さらに我が家の在宅管理者からも取替え要求の突き上げが激しくなっていたのは事実である。
つまりオーブンレンジ買って買ってのリカちゃんハウスな幼児狂乱状態だったのである。
そこで降って湧いたかのような電子崩壊。
ミステリ好きならその辺の因果関係を一度は疑ってみたくなるようなタイミングでありました。
ま、しかし確かに局所に絞って言うならば、すなわち電子レンジ機能だけってすでにして使いにくいようなのだ。

たとえばパンの発酵とか、ピザを焼く高音焼成サウナとか、単なる電磁波調理器だけにはできない微妙な仕組みというものを持ち合わせた家電複合機がつまりオーブンレンジである。
それを最近までうちでは、パン焼製造機と、オーブントースターと、電子レンジがまるでゲッターロボのように、いや、分業制の問屋制家内工業よろしくテマヒマ掛けてトリコロールでやっていたのである。
しかし、この分業制というものは実社会上の仕事や組織と同様に、ひとつが機能しなくなるととたんに全体が機能不全状況に陥るというとんでもない恐慌発生システムなので、せっかくこねたパンが発酵できないまま焼き上げ工程に投入されるなど、その複合的弊害は無視できないものになっていた。
結論として、いわゆるプロジェクト方式、あるいはセル方式のような、ひとつの部門がすべての過程を責任持ってやっていくというのが昨今の必然的時代底流のひとつなのである。
えーまあそんな大した問題でない気はするが、ともかくうちの電子レンジ君が壊れたことによってすべての機能を集約した工程加速装置・オーブンレンジスペシャルがウチにやってくることが結論付けられ、方向性が定められたのである。

ところでこのコンバイン1・2・3システムというものは、様々な家電形態においてここ20年くらい掛けて徐々に推し進められてきたにじり寄りの進歩事実で、ひとつの例として、二層式洗濯機が全自動洗濯機に、さらには乾燥機付きの洗濯機というものに変遷してきたというのがある。
さらには稲刈り機と穀物乾燥機と脱穀機と袋詰装置が知らぬ間にユナイテッドしてきたという歴史にも通じる漸進なのである。
そしてそのような時代背景の中でも、オーブンレンジの「煮る、焼く、揚げる、蒸す、発酵・・」といった食卓のすべてを集約するという特徴は、他に勝るとも劣らない、世間の評価以上にすばらしい統合効果をもたらした機械装置のひとつであることは言を待たないのである。

さて、これを近所のヤマダ電機に買いに行ったのであるが、ひとこと、オーブンレンジって安いな!
ウチのレンジの設置場所は食器棚の中空部分、つまりダイブ狭いので奥行きからいうと中型のまでしか置けないのであるが、それがなんと2万円しないのだ。
このあいだRioというフラッシュメモリー型音楽再生データ転移装置を購入したのであるが、それが確かちょうど同じ値段であった。
大きさといい、やってる仕事の重要性といい、なんだか途方もなく騙されているような気がしてくる。
青菜屋の和御膳、オイシウございました! と、何とかという親指サイズのチョコのきれっぱしが同じ値段である! というのにも似たカルチャーショックがあると言っても過言ではない。
パティシエとかショコラティエなぞという人種が作った小ざかしいデザート群とあの携帯ミュジクプレイヤーには何かしらの共通点を感じるな。
んで、またオーブンレンジのハナシに戻るけれど、さらに大型のレンジ、七面鳥がまるごと一羽焼けるような巨艦巨砲主義的オーブンレンジでもなんと5万円しないのだ。
これだけ立派な装備装置がなんと5万円なのである。しかも今なら不要なインスタントカメラがふたつみっつ付いてきそうな勢いの値段設定なのである。
確かに冷静に考えると、今オーブントースターって1000円しない値段で売っているし、電子レンジも1万円しない、下手すると5000円しないから、まあ足しても1万円いかないという理屈もありえるが、何かがおかしいという気がするのは私だけなのだろうか。
たしか二層式洗濯機が全自動になるとき値段は2倍以上になった。
ラジカセがCDラジカセになったときもちょうど2倍くらいの値段になったのではないか。
今でもそれくらいの差はあるような気がする。
それではよほどオーブンレンジの仕事質量が比較衡量的に劣っているかというと、洗濯乾燥機のやっていることを見るにつけ、彼らがオーブンレンジに比してそう難しいことをしているようには見えない。
客観的にその洗濯機というものの動きを観察してみると、ぐるぐるオケ廻して水の出し入れと熱源スイッチオンだけである。
つまり図体はでかいけど、その基幹装置の能力というものはビックリするほど大したことない。
これは冷蔵庫という巨体家電に対しても同じことがいえる。
ただ冷やすだけ。
部屋ごとの温度差を管理するだけで電気代は別途こちら持ちである。
これは例えていうなら第3セクターの案内係や、競輪場の切符売りのおねえさんのようなもので、しごく惰性的でかつ慢性的やっつけ仕事に対してとんでもない額の報酬が懐に転がりこんでいる感じである。
コンプレッサぶん回して小部屋冷やしてるだけでウン10万円。
こうしてみると、家電市場というところは、機能や仕事の質量的にはあまり差がない割りに、値段は明らかに大差のついた草野球のコールドゲームのような空しくもはかない値段設定世界になっているのである。
相対的に見て、この費用対効果の歴然たる差というものは承服しかねるレベルに達しているのではないか。
つまりオーブンレンジは過度に低評価されていないか。
たとえば使用可能稼動年数で比べてみても、レンジは15〜20年、洗濯機は10年、冷蔵庫もそれこそ時限装置をつけているかのように正確にきっかり10年で取替え時期がやってくる。
残存価値を0とした費用配分計算してみると
2万円÷15年÷12ヶ月=111円(オーブンレンジ)
10万円÷10年÷12ヶ月=833円(洗濯機、冷蔵庫)

月額にしてなんと7〜8倍の償却費用がかかっている計算なのである。
誰かがこの原価の利幅をポッポないないしているのは明らかなのである。

まあ今回は購入するのが割安なオーブンレンジ側だったから、私も、さらにはうまくパンの焼けた女性在宅管理者も、ニコニコ笑って幸せな気分でかわいいオーブンレンジをヨシヨシと眺めているのだが、今度洗濯機か冷蔵庫が壊れた日は大変だな。
その日までに私の納得中枢を収めてくれるような商品コンセプトと相対的値段設定が生まれていることを願ってやまない。

余談だが、よく見るとウチの家電て皆三菱電機製になってきたな。
まったくメーカーで選んでるわけではないのだが、私の中でも家電製品のブランドランキングってできているのでそれが影響しているのは間違いない。
一応書いておくと、悪いほうからいうと三菱重工。
三菱重工(電機ではない)の製品て今では一般市場では見かけなくなったけど、ビーバーエアコンから、パジェロなんかに積んであるクーラーからまったくダメで、そのへんは三菱重工の未来の社長も認めているほどとんでもない代物だった。
現在では東芝とソニーがワーストを争っている。
東芝って関西では妙にブランドイメージいいけれど、電気屋の息子から言わせると評価はCランク、東芝製の洗濯機、クーラー、冷蔵庫は通常メーカーの半分しかもたないし、それ以上に性能悪い。
ソニーの音楽製品も今昔通して最悪だな。
ソニーショックなんていうけれど、あんなもんもとからそんな価値ないで、ニックホビーショップと同レベルの発音とブランド価値なのである(ニックよすまぬ)。
ナショナル・パナソニック、シャープは最近いいですね。
関西に棲んでいるから言うわけじゃないですけど。





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