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第60回
異邦人 2004.10.11
口を開いて
音を震わせて意思を伝えようとしないもの
白目多く
瞳孔の動き俊かつ梟
翼を広げれば全長7メートル
中心の気圧はおよそ3,200ヘクトパスカル
この駅を出ますとつぎは終点黒い森まで止まりません
異邦人
ちょっとちょっと見たぁー?とのっけからおばちゃんのノリのようで恐縮であるが、最近新聞の広告欄なんかに紹介されているような、ある意味メジャーな出版物を読んで少し興奮しているのである。
ハリー・ポッターじゃありませんぞ(ましてや冬のソナタでもない)。
小稿でも何度も繰り返し言っているように「アメリカ人=アホ」というのは否定しようのない事実であるのだが、そのアホアホたる根拠ともいえる事実をその本を読んでいてまた見つけてしまったのである。
本の名はババーン!『怪獣の名はなぜガキグゲゴなのか』著:黒川伊保子。
タイトルだけで読みたくなってくるでしょ。
内容はそのものズバリ、怪獣の名前は必然としてガキグゲゴである、ということを「ことばのサブリミナル・インプレッション=マントラ」という概念を元に証明するという意図を持った本なのである。
たとえばキリン・トマトジュースとカゴメ・トマトジュースのどちらが売れているか?というと断然カゴメの方がシェアは大きいのであるが、その「キリン」と「カゴメ」の人気の差はトマトジュースそのものの味やパッケージでなく、RとG、NとMの発音、唇、口蓋、息の動き=語感によって現出する!というような感じ。
確かに言うまでもなく、怪獣や宇宙星人の名はギエロン星獣やレッドキング、アンギラス、ドドンゴなのであって、モビルスーツはゲルググ、ガンダム、ギャンなのである。
つまりGBD・・といった濁音がそういう男児系偶像のほぼ過半数を占めているというのは正しい指摘である。
そして論旨によると、幼い男の子に濁音の好まれる理由はその口の動きが男の性欲的発露を心地よく刺激するからであるということらしいのだが、その指摘も何となくフロイト的視点ながら納得性は高い。
まあそういう中身の本流的論考はともかく、その話の脱線的に語れるところに
@日本人は「あいうえお」という横軸と「KSTN・・」という子音的横軸との組みあわせで極めて数学的論理的語学発想ができる
A母音(あいうえお)を意識的に発音する(できる)言語族は互いに理解し合おうとする人種で、子音をメインに発音する言語族は他人との区別を優先する人種である
という記述がある。
一見乱暴な展開に見えるが、心の目から見ると、さもありなんという感覚、ぴたっとくる感じがするでしょう。
たとえば@のところで日本人はつまり母音5×子音10=100の組み合わせで思考を巡らすのが、欧米人はアルファベット26文字×同26文字=676の組み合わせで思考をつないでいくらしいのだ。
いうなれば2進法から10進法、12進法まで知っている人間と、2進法しか知らない人間との差、くらいの差があるわけである。
掛け算を知らない人間が愚直に足し算を重ねていくというような感覚にも近い(2×36=72:2+2+2+2+2+2+2+2+・・・・・・=72 という感じ)。
幕末に日本に来た外国人がその識字率の高さ、低階層民の教養の高さに驚嘆したという有名な話があるが、実際寺子屋というような組織上の利点もあったのだろうが、@のような言語学上の底上げが、日本人の教養素養ひいては文化を高めているのは疑いない。
昔からアメリカ土産とアメリカ文学にはろくなものがない!と感じていたのはこのセイだったのである。
そしてAのところでいうと確かに「a,i,u,e,o」を発音するときの感覚とthとかsとか子音オンリーの発音をするときのその投げかけ対象に対する親密感てだいぶ異なる気がする。
実際に声に出してみると明らかに母音の発音は親密度が高い。
顔を見て「あ、あ、あぁ・・ん」と言われるのと「しゅっしゅっちっ・・」といわれるのと比べて考えるとよくわかる。
フランス語やイタリア語なんつうのは比較的母音を発音する言語であるから、会話している相手のほうに飛びこんでくる度量が感じられる。
そしてその母音的発音のほぼない、子音と子音のぶつかり合いの余韻で消えていく英米語というのは、会話しているうちに人を区別し排除し、サイアク貶めている、というのは何となく感覚で賛同できるところである。
さらにそういう言語の暮らしの英米人は「あいうえお」が聞き取れない、しゃべれないらしい。
日本人がシアターとかロールスロイスなんて言ってTとSやらの区別をほとんどつけないのと同様に、いやそれ以上に彼らは「うんこ」や「いのうえ」という単語がフツーにはしゃべれない。
あいうえおという音が単音で存在することが理解できないのだ。
よくNHK教育テレビなんか見ていると英会話番組でふんぞり返っているくそアメリカンがいるでしょ。
そんでえらそうに「日本人ぐwぁ6年間も勉強して英語をしゃべれないぬwぉわぁ学コhーが悪いんでース。wあなた神を信じむwぇすくhぇ?」という口調でご高説をのたまわっしゃる。
あとで履歴なんか見るとなんと10年も日本で暮らしていたりするのであるが、彼らがきちんとしたあいうえお、日本語をしゃべっているかというとそうでもなくて、周囲の日本人の優しさと寛容が彼の思い違いをオブラートで包んでいるのである。
同じコト(アメリカ人はいくら勉強しても日本語がうまくしゃべれませんねぇなんて)を日本人が英語で言ったら英米人に袋叩きになるのは言うまでもない。
ちなみにこの『怪獣の名前・・』の文体の中身は、きわめて論調荒くて、本人は学術的教科書を志向しているようなのだけど、その実際は私が『人類骨格学』なんて言って一人しゃちほこばっているようなのと同様になっていて、言ってることが本気なのか冗談なのかよくわからないというところがいかにも新書版・・という感じなのだが、逆にいうと実際的で感覚的で、つまり人格的には信用度が高い。
こういう本好きですね。
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