海洋空間壊死家族2



第58回

惰眠   2004.9.29




つきつめてむさぼれば
昇天の心地むかうべし
さからひて抗えば
恍惚のラビリンスに陥らん



何のタメに生きているのか・・何の必然性があって生まれてきたのか・・なんて考えはじめると鬱病気味になってしまって夜も眠れない、という人もいるらしいけど、そういう人はご自分についてとんでもない誇大妄想をしているか、あるいは著しく思考能力の欠如しているかのどちらかである。
つまるところ人間なんつう生き物も他の動物と一緒で、食物連鎖の一部となって「食って出す」ということさえしておれば最低限の義務を果たしていることになるわけであってそう肩肘張らんでもよろしいんである。
ま、そう簡単に割りきるには100万回くらい生きてみないと到達し得ない真理ではあるけれど、しかし、幸か不幸か私はその二点に絞って人性(人生)における集中投資をしてきた(どんなだ)。

ただし供給側の論理を多少考慮した上で、つまり人間が生きていく中で、おのずから必須の要件というものもあって、それは

食べる
排泄
寝る

という三大要素である。
そしてその重要度喫緊性を鑑みて番号順に並べっ!と試みるなら、対象行為が不足したときに逼迫する度合いからみて

1.排泄
2.寝る
3.食べる

という順序になるというのは異論のないところであろう。
「非常に眠いけどウンコしたくて腹が減っている」という状況で何をするのか?
考えてみれば一目瞭然なのである。

この中でも特に「寝る」というのは、他の種族と比べても格段に複雑な群れ社会を生き抜いていく人間にとって累乗的に必要十分条件な行動パターンであると思われる。
寝る前には心の桐の木に首くくりになって、下から火かき棒でつつかれながらぶら下がっていた上司が、寝た後にはするりと逃げていなくなっていて、こちらもそれほど気にならなくなっている。
あるいは、こんな生活もうイヤだ!別居だ!離婚だ!調停だ!と喚いていたのが、次の朝になると仲良し小道のどこの道に早変わりしていたりする。
いわゆるリセット機能というものである。
心理面はともかく、免疫系、物理的な面でも「寝る」という行為はなにものにも勝る、人間が生きていく上での最重要課題であるのは間違いない。
これがないと人間は生きていけない。

ところで自慢になるのだけれど、ワタクシとある事情で、その「寝る」という行為の前提条件たる「寝具」つまり、掛敷ふとん、枕、シーツ、ベッドにソファーまで人並み外れた知識を持っているので、寝るということについて、ある意味スペシャリストになっている。
昔は睡眠不足で悩んでいたのが、今では理論派いつでもどこでも寝れます寝かせますタイプに変化しているのである。
いってみればスリーピングプランナーというのか、スリープアドバイザーのような人間なのである。
たとえばその寝具の材質から規格機能面、あるいは、掛け布団は中身よりカバーが重要であるとか、人間の頚椎の自然なラインの寝相構造など語り出したらきりはないのであるが、しかしそういう表層的なものはともかく、実質どんな寝方が正しく理想とされているのか?という問いはディオゲネスの時代からの永遠のテーマであって、ここで語るにふさわしいわけである。

まず基本的な寝姿勢である。
まあ普通の分類上のホモサピエンスでは大きく3パターン。

・横向き
・仰向け
・うつぶせ

の3様態が考えられる。
これは大きい病気をした人には理解しやすいが、横向きが唯一正しい姿勢である。
もちろん嗜好が分かれるのは間違いないのであるが、身体に一番負担が少ない、という意味で他の2つを大きく凌駕している。
うつぶせは就寝時の呼吸量を低下させ脳の劣化を早めるし、仰向けは背骨腰骨への負担が大きくなる。
まあ実際には仰向けにもうつぶせにもいい点はあっていろいろ組み合わせて寝るのが一番いいのだが、どれかといえば横向きがベストなのは間違いないのである。
特に腰を痛めている人は横向きで寝ると一等楽である。
このとき左わき腹を下にするのがさらに良いのは言うまでもない(胃の構造上の問題と、刺客からの一撃で心の臓に致命傷を負わないため)。
忍者も左わき腹を下にして寝ている。

次に手の向きであるが、これは一般に思うよりも重要な用件であって必ず手を上に万歳に近い形にして眠るべきである。
子供の寝姿を見ると必ず万歳していて、少なからずおかしみを覚えるのであるが、あるとき真似をして寝てみるとこれが思いのほか気持ち良くて、今では逆に、手を下げて気をつけの姿勢でなんかもう眠れない。
思うに脇の下を流れるリンパ管・血管が開いて血の廻りが良くなり、身体の基礎クンダリニーパワーが就寝中に逆流を始め、通常の3倍の寝込能力を発揮するのだ。

足の向きはどうだろうか。
ここは二匹目のどじょう、子供に習って裏返しになった昆虫気味に開脚して寝るのを試したけど、腰に負担がかかるようであまりお勧めではない。
関節のやわらかい赤ちゃんだけが甘受できるシャングリラ体位のようなのだ。
一方ウチの奥さんなんかは立て膝をたてて、明け方なんかに見るとなかなか色っぽい寝方をしているのだが、しかし私が真似をしてみると、するするすとんと膝が落ちてしまって、いったいどういう構造になっているのか不思議なのである。
結論としては指を天井に向けてつまりまっすぐに足を伸ばして寝るのが一番楽なようである。

以上のことを勘案して、人間の最上級のベストな寝方というのは「手を上げて足を伸ばして眠る」、つまりジャイアントロボの飛行姿勢、分かりやすく言うと「ナハ!」の姿勢のような形が良いという結論になる。
ただしこれはもう、眠っている様子を他の人に見られても大丈夫!という自信のある方だけが享受できる至福であって、今から寝顔や寝ることにカッコつける必要のある方は参考にしてはならない、禁断の木の実なのである。





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