海洋空間B級生活のためのB級名言



第7回 ミッドナイト・パセリパーティー・ロケンロー!   2004.1.5



《今回の名言》

うまく言えないんだが、そいつになってしまうんだね。
                     〜『永遠も半ばを過ぎて』



みんなー!ドラッグやってるかー!?
…風邪薬だけど。ドラッグ最高!イエー!
…風邪の引き初めに。
用法・用量守ってダイブするぜ!
…布団に。
ケミカル系もネイチャー系もビッシビシに効きまくるぜ!
…風邪に。
なんかこの文章、薬事法に引っ掛かりそうだ。
いいのかな?まぁいいや。

最近じゃコンビニでも医薬品栄養ドリンクが売られて、
そのうち風邪薬なんかも置かれるようになるらしいね。
少し前までは薬局に薬剤師さんがいて、
お客の症状を聞いてそれに合った薬を売っていたものだよね。
今じゃディスカウントドラッグストアなんかが乱立してて
場所によっては激戦区になったりしてもう大変!
金髪の薬局店員も大変だけど、
大変といえば先日、町の小さな薬局に風邪薬を買いに行ったんだけど、
そこのご主人(70才くらい)がすごかった。


俺:あ、すいません。
   どうやら風邪を引いてしまいまして。

薬屋:はい、どんな具合ですか?

俺:えーと、微熱がありまして、食欲がなくて頭がフラフラするんです。

薬屋:はぁはぁ、で、咳とか鼻水は?

俺:ないです。

薬局:お腹を下したりとか。

俺:ないです。
   で、風邪だと思うんですけど…。

薬局:う〜ん、それ、風邪かなぁ…。

俺 :いや、あの、たいしたことないと思うんですけど、
   少しでもマシになるような薬ってありますか?

薬局:これは…病院に行って、点滴打ったほうが…イイと思う。

俺:…あぁ!?

…謎です。
ノードラッグで2日後に完治しました。
昔からやれば出来る子って言われてたけど、こんなところで実力発揮してどないすんねん!

風邪薬の成分が体に作用してウィルスをぶっちめていくんだけど、
お医者さんや薬剤師さんの
「効きますよ」「治りますよ」っていう言葉も効いていると思うんだよね。
まぁ、それは雰囲気的なものなんだけど。

あれは俺が大学3年の頃だった。
俺とSは経済学部でありながら毎晩のようにラジオコントを作っていた。
そう、それが伝説になり損ねたラジオコント職人『PULPDUST』。
4チャンネルのMTR(マルチトラックレコーダー)にマイクを突っ込んで
朝7時まで走り続ける深夜超特急の猛者ふたり。
今考えると芸大に行けばいいじゃんとしみじみ思うのだが、
そのころはもう無我夢中っつうか竹脇無我っつうか初期衝動の思うがまま。
シナリオ書いてファミレスでSとバカ話して深夜3時頃録音始めて朝7時頃に寝る。
という作業を週に3〜4回してた。
で、ある日、図書館で植物図鑑をパラパラめくっていると大発見!
へぇ〜、パセリって幻覚作用があるんだ!
すっげー!
合法だし、大自然の力だし言うことなし!
…でもどうやるの?
生なのか?
乾燥させたほうがいいのか?
このインチキ臭いやばさは是非Sを同席させねばいかんな。
というわけで、我々のとった方法はスーパーで乾燥パセリを購入。
タバコの葉っぱを揉み出して替わりにパセリを詰める。
で、スッパー!プッハー!
・・・・・まず。
なんだこれ?
不味すぎる。


S:ふぁ〜・・・おっかしいなぁ。
  どう?効いてる?

俺:ぷわぁ〜…これ、味付けに失敗したすき焼きの味や。

S:なぁ、いつになったらハイテンションになれるん?

俺:おかしいなぁ。
   パセリってもしかして…。

S:…ダウナー系?

俺:なんか体がだるい。

S:俺もや。
  トロ〜ンってしてきた。

俺:効いてんのか?

S:たぶん。

…眠かったのだ。
深夜3時でどうしようもなく疲れて眠かったのだ。
しかし俺もSも絶対にパセリは効くと信じている。
だって植物図鑑に書いてるんだもんよ。
大麻を吸った人間てこの世にかなりいると思うんだけど、
パセリを吸ったやつはたぶん2人だけだ。
…と思って、今ネットで調べてみたら結構いるね。
しかもよく読むと効果があるのはパセリの種子だそうだ。
乾燥パセリが効くわけねーよ!

というお馬鹿メモリーで始まりました今日の名言は
中島らもの小説『永遠も半ばを過ぎて』から。
中島らもは俺にとってかなりフェイバリットな作家先生です。
初めてらもさんの文章を読んだのは小学3年生だった。
当時の俺はエリート街道まっしぐらで、
小学2年生からなにやら賢げな進学塾に通わされていた。
結構な人数が通っていて、5〜60人中常に10位以内には入っていた。
ランカーってやつ?(数年後転落の一途を辿るが、それはまた機会があれば。)
で、国語読解力の問題集にらもさんの文章が使われていたのです。
今では信じられないが。
その文章は別著「頭の中がカユいんだ」からの一節でしたが、本当に面白かった。
『人前に出るとあがってしまう。
 そこでサングラスを掛けることにした。
 しかし初対面の人や仕事の席では失礼に当たる。
 その言い訳として、目が悪いんですと言い続けた。』って話。
8才の俺はなんだか分からないけど、引き込まれたのであった。
短い中にも面白さや、文章の軽快さを感じたからかもしれない。
どうしても全文読みたくなって学校の図書館に行ったんだけどやっぱりない。
お小遣いをくれるシステムの家庭ではなかったから本屋で買うことも出来ない。
当時センシチブだった俺は立ち読みも出来ない。(←寄り道禁止だったし。)
結局本格的にらもワールドに埋没していくのは高校生だったかなぁ。
何度も読みまくったね。
らもさんの話やエッセイは自伝的な要素が強く、
自分を含めて彼の周囲に集まる人々や出来事を題材にしている。
トップクラスで灘高に入り、フーテンで卒業。
浪人後芸大に入り印刷会社に入社。
退社後コピーライターに転身し、
その後作家として活躍中に逮捕されて現在も作家活動中です。
…すっげー経歴。
まず勝てないよ。

中島らもの作品を読んだことのある人の多くはエッセーが面白いという。
少なくとも俺の周囲ではそんな感じです。
しかし!
だがしかぁし!!
中島らもの真骨頂は小説にあるのだ。
知っている人は知っている独特の喋り方からは想像もつかない美しい文章表現。
行間に滲み出るエンターテイメント性。
まぁ、騙されたと思って一度読んでみて!

三流ペテン師の相川真、写植屋の波多野善二、編集者の宇井美咲。
一匹一億円のタニシに始まり、
幽霊の書いた小説をでっちあげる「嘘」と「騙し」のオンパレード。
なによりおかしいのが主人公三人の名前の一部をつなげると
「真善美」になってしまう手の込みよう。

で、今回の名言は
『うまく言えないんだが、そいつになってしまうんだね。』
造本家を騙り医師協同組合のプレゼンに出席した相川と波多野。
その夜、相川が、波多野に自分の詐欺テクニックを話すシーン。
何かの職業になりきるときは、とことんその人物について考える。
考えて考えて考えたところにそいつがやってくるという。
これ、演劇をしている人もそうだけど、物書きをしている人もわかるんじゃない?
俺もコピー書くときはこんな感じ。
ただ違うのは、フッと降りてきたフレーズやネタを一度疑ってかかること。
そして確信へ近づけていく。
最終的にはそのネタは最後の方まで残るんだけどね。
すごいえらそうなこと言ってるけど、なっかなか降りてこないんだよね、
コピーの神様と笑いの神様。
そう、降りてこないときどうするか。
敏腕コピーライターになりきるんだよね。
これ実は、かなり恥ずかしいカミングアウトです。
本職のコピーライターが一流コピーライターになりきるって言うのは
自分を三流以下だと決定づけていることだからさぁ。
でも真実だからいいよ、もう。頑張るからさ。
まず、椅子をめいいっぱいリクライニングさせます。
タバコを吸いながらメディテーションしましょう。
もしあればヒゲをしごいてみます。
同僚に話しかけられたら標準語で話します。
知っていれば業界用語を使ってみるのもイイですね。
ささやくように喋るのがポイントですよ。
3時間経って何も浮かばなかったら、少し散歩してみましょう。
帰ってきたら椅子をめいいっぱいリクライニングさせます。
タバコを吸いながら…。
ごめんなさい。
所々嘘です。
しかし、自己暗示はいいです。
自分以上の能力の人間になりきることで
数%でもいつも以上の力が出せればいいでしょ?
好きな言葉は結果オーライ。

本文中後半に波多野の言葉で
『作家というのは多かれ少なかれ、何かに取り憑かれてものを書くんじゃないんですか。』
という一文がある。
俺は猛烈にこの言葉に共感する。
言葉で何かを表現したいという欲求か何か、得体の知れないものに取り憑かれている。
あのラジオコントや短編小説を創り始めた頃から何かに俺は取り憑かれている。
そして一生このままでありたいと願う。
俺以外の誰にもならず。
そしてパセリは二度とお断りだ。




永遠も半ばを過ぎて 『永遠も半ばを過ぎて』
文藝春秋
1994年9月刊

著者:中島らも





戻る

表紙