いわくだらけの東京オリンピックが閉幕。
開催に至るまでのプロセス等には私も閉口してしまうことが多々あり、運営全般における手際の悪さや行き当たりばったりとしか思えない意思決定等には心底呆れたが、いざ、この瞬間に人生を賭けてきた選手たちが取り組む姿を目にすると、元来スポーツ好きという嗜好と相まって、一切の理屈抜きで超人たちの祭典を素直に楽しむ自分がいて、また折々で心を大きく動かされることになった。
以下、順不同で印象に残った競技を列記してみる。
・男子マラソン
「観客の声援は不要」とかつて語っていたクールな大迫傑選手が、最後の直線で沿道の人たちに手を振った。
その姿を見るだけで、こみ上げるものがあった。
今回が現役ラストランと公言していた彼が、そのラストレースですべてを出しきったんだな、と自ずと納得できる光景だった。
ゴール直後のインタヴューでの男泣きがまた、それを雄弁に物語っていたと思う。
まだ30歳、現役を続ければこれからも日本記録を更新するチャンスが何度もあるのでは...と個人的にはもったいなくも思うが、本人が熟慮して決断されたことに拍手を送りたい。
・バスケットボール女子
準決勝でフランスを破り決勝進出、しかも16点差をつけて、という報にとにかく驚愕した。
それも、けがの影響で間に合わなかった渡嘉敷来夢不在のロスターで。
トム・ホーバス体制になって本当に強くなったが、まさかここまで来るとは...。
決勝では絶対王者のアメリカに完敗したが、前戦である意味燃え尽きた感があったかな、今回は。
もちろん銀メダルに輝いたこと自体がとてつもない快挙ではあるが、アメリカに負けたことに対してもう少し悔しい顔を見せてほしかったような気もする。
・バスケットボール男子
予選リーグは3戦全敗という結果に終わったが、これは想定内だったので仕方ない。
しかし、現代表が歴代最強と言えるのは間違いない。
私のような世代が"動けるビッグマン"として思い浮かぶのは、山崎昭史選手や古田悟選手、時代下って竹内公輔・譲次兄弟などだったりするが、本当に今は比べるべくもないぐらいに、大きくても速い日本人選手が増えた。
まずはアジアの頂点を目指してさらなる進化を遂げ、自国開催枠がない次回以降の大会にはぜひ予選を突破して出場してほしいと心より願う。
決勝はアメリカが87-82でフランスを下したが、フランスは充分勝てるチャンスがあっただけにもったいなかった。
ディフェンスのプレッシャーがそれほどきつくないシーンでもシュートセレクションが悪い、撃つべきところで撃たないからターンオーヴァーが増える、そしてせっかくファウルをもらってもフリースローが入らない...特にフリースローは致命的で、チームでは18/29の62%、最も多く試投したルディ・ゴベアに至っては6/13の46%と素人並み。
これだけミスが相次いでしまうと、例え同じぐらいフリースローを落としていたとしても個々の能力で上回るアメリカには勝てない。
・バスケットボール男子 3X3
しっかり観たのは初めてだが、とにかくスピーディーで休む間がないことに目を瞠った。
明らかにフルコートの5人制よりきつそうだ。
今の富永啓生をじっくり観られたのが個人的には収穫だった。
・陸上女子1500m
田中希実選手が凄過ぎる。
まさかこの種目で日本人が決勝を走り、それも入賞するとは。
去年から今年にかけて国内で相次いで1500m、3000mの日本記録を連発したのにも驚いたが、このオリンピックで自身の持つその日本記録をさらに5秒近くも縮めるなんて!
・競泳男子200mバタフライ
決勝進出タイムもギリギリの8番手、はっきり言ってノーマークだった本多灯選手が、後半さらにペースを上げて2位でフィニッシュした姿には甚だ興奮した。
あの小さな体で世界と渡り合うとは。
レース後のインタヴューで感じたが、19歳という年齢で、まだ怖いものがないキャリアだからこそストレスフリーで伸び伸び泳げたのかな。
・競泳女子200m個人メドレー、400m個人メドレー
イトマン大喜びの、大橋悠依選手2冠。
どちらも、フリーに移る前のリードがちょっと足りないんじゃかな...と冷や冷やしながら観ていたが、かわされることなく粘り切る底力に感服した。
・野球
監督の采配やベンチワークには正直、首を傾げてしまうことも何度かあったが、選手の力で見事短期決戦を乗り切って、悲願の金。
特に若手の台頭が物凄いことになっていた。
・卓球混合ダブルス
まさか中国の牙城を切り崩して金とは、天晴。
それも男子はピークを越えたと思われる水谷隼選手。
魂のプレイを見た。
・空手男子形
優勝してもまったく笑わず眉間にしわを寄せたままの喜友名諒選手。
武道に取り組む人は勝手に人格者だというイメージを世間が持ってしまいがちなので、そのキャラを崩せないのかな...などと不要かつ軽薄な心配をしてしまったが、実のところは亡くなったお母さんのことを思い、万感に浸っていたのだろう。
遺影を手に臨んだ表彰式が心に残った。
・総合馬術個人
1964年の東京オリンピックで女性選手の出場が認められて以来、初めてこの種目で女性が金メダルを獲得したということだが(馬術は男女の区別なく競技が行われる)、日本国内での報道はほとんどなし。
馬術は見ていても面白い競技だと思うし、特にこうした快挙はしっかりと伝え、もっと露出させていくべきだろう。
他にも、女子三段跳びや男子400m障害で飛び出した世界新記録に口をあんぐり開けたり、閉会式で見られた選手たちのリラックスしたオフショットに微笑んでみたりと、随所で楽しませていただいたし、白血病の治療から短期間で世界の檜舞台への復活まで果たした池江璃花子選手には、言葉で表しきれない敬意を捧げる。
♪ Tooth And Nail - Dokken