夏が近付くと甦る
つい先頃も人に「よくそんなに体動かす時間ありますね」と少なからず驚かれたわけだが、僕はこう見えても相対的に言って他人よりも相当健康に気を遣っており、近年は食事も腹八分目、栄養バランスも常に意識し野菜多目の肉少な目を強く心がけ、業務終了後あるいは休日は草バスケットボールや草野球に汗を流し、その他筋トレやジョギングやスイミングなど、気が向き時間が空けば極力エクササイズをするようにしている。
その衝動はまさに強迫観念と呼んでも何ら差し支えない域内。
そしてこの僕の「運動しなきゃ、体鍛えなきゃ、健康を保たなきゃ」という強迫観念の礎には、明確なきっかけとなったある事象がある。
会社に入って数年が経過し、10代後半から20歳過ぎあたりまで維持していたはずの体力の衰えをそこかしこでようやく自覚し始めた頃。
あれ、おかしいな。
足がついてこないぞ。
ジャンプしても届かないぞ。
俺ってこんなに疲れやすかったっけ?
そんな時分に、当時担当していた番組内の企画において、富士山に登って何やかやをしようというロケを敢行することになった、自らの発案で。
季節はちょうどお盆の頃、最も登りやすい時候で、登山客の数も1年のうちで最も多い。
何の根拠もなく漠然と、富士登山なんてものはハイキングの延長みたいなもんでしょと、山登りを愛好する人たちからすれば極刑にも値するような大きな勘違いを以って臨んだロケ本番。
大方の想像通り、その甘過ぎた誤解は嫌というほどに正され、何じゃこりゃあなんて悪態も最早音声を伴って口から飛び出すことは金輪際ないんじゃないかと思えるほどに困憊した。
夏の盛りだというのに5合目から少し上がるとすでに半袖ではいられず、8合目に差し掛かる頃にはもう気温は摂氏10℃を下回っていたはず。
当然山の上だから天候もクルクル変わる。
高度が上がり酸素が薄くなるにつれ、都会で生まれ育った貧弱な体は疲労を溜め脳の働きは鈍る。
それでもどうにかこうにか、同行者に多大な迷惑を掛けることもおそらくなく登頂には成功、御来光も拝むことができ、撮影自体も一応問題なく終えて下りてくることはできたが、とにかくかなり肉体的に辛い経験であったことは事実である。
そんな辛かった富士登山の道中に強く心に刻まれたある想いがある。
先にも書いたが、時節は夏休みの真っ只中、同じように富士山頂を目指す登山客も周囲にたくさんいた。
そんな多くの巡礼者たちの中には、50歳代あるいはひょっとしたら60歳を超えているかと推測される初老の男女もたんまりとは言えないながらも相当数混じっていたのである。
ヒイヒイゼエハア喘ぎながら僕はそんな自分の倍以上は生きてきたであろう人たちが元気に山頂を目指して歩いている姿を見て、「果たして俺があの人たちの年齢に達した時、同じようにこうして富士山に登ることができるだろうか?」と反射的に自問してしまった。
「否」という回答はすぐさま導き出された。
自分が50歳になった時、再び富士山に登ることはきっと不可能だ。
富士山から大阪に帰ってきた僕をずっと捕らえていたのは、そんな暗澹たる絶対的予感。
無駄に説明が長くなってしまったが、今僕がエクササイズを続けている、食事に気を遣っている、病的なまでに体を動かそうとしているすべての衝動の根底にあるのは、「50歳になっても、60歳になっても、富士山頂に自分の足で歩いて登ることができる体力を保っていたい、いや、保っていなければいけない」という直截的な強迫観念なのである、要するに。
三浦洋一郎のように、とまではもちろん言わないが、このまま都市型利便生活満喫享楽的毎日を送っていれば俺はきっと還暦を迎える前に車椅子のお世話だぞ、と当時存分に恐れ戦いたのである。
以来毎年夏が近付くと、「俺は今年富士山に登ることができるか?」と自分の肉体に問うばかり。
まだ大丈夫。
まだ大丈夫だ。
来年はどうだ?
再来年もいけるか?
日本一の霊峰は、こんなところでもちっぽけな人間1人に意外な霊力を及ぼしている。
♪ 野垂れ死に - 人間椅子
コメント
富士山、いいきっかけですよね!
体力ってやっぱり落ちるんですかね。
あたしもヨロン走った時に同じこと感じました。おじいさんやおばあさんが、スイスイと笑顔で走ってるのには、たまげました!
あの頃はしばらく続けてた運動も、今や週1回のジムだけです。
食べ物とかって変えるとそんなにぜんぜん違うもんなんですか???
あたし意識したことないからわからないですね~。だっておなかいっぱい食べないと満たされた気しないんですもん・・・そのうちどっかに
ガタ来るんかなぁ・・・
Posted by: あっこ | 2006年6月 9日 11:57
富士山のぼってみたいんですよね~。
でも、相当大変というのは友達達から聞いていて、なかなかチャレンジするチャンスがありません。
友人は、富士山登って悟りを開いてくるわ~!!と行きましたが、悟りを開くどころじゃないくらい寒いしつらい、山頂コーヒーも500円しても寒すぎて買っちゃうよ。といってたので、ツアーか経験者と一緒にのぼらないと不安ですね。でも、今は人生で一番運動してるかもだから今がチャンスかも~!!
Posted by: ペーター | 2006年6月10日 01:12
富士山登っていましたね~。
あの時ついてたADに「どうやった?」と聞いたら、
「二度と登りたくない・・・」って言うてましたわ。(笑)
それでも一度は登ってみたいなぁ~。
いまだにちゃんと見たこともないし。
私もおばあちゃんになっても、自分の足で歩き、自分の歯でご飯が食べれるように、健康管理には気をつけようっと★
Posted by: こまつ | 2006年6月10日 14:10
>あっこ
いやあ、でもフルマラソン走ったあっこの体力と根性もたいしたもんだぞ!
食い物はやっぱり違うね~。
お前も30超えたら分かるぞ…?
毎日カラダスキャンしてるんだけど、内臓脂肪レヴェルとかが明らかに変わってくるよ。
>ペーター
夏休みがベストシーズンなのでぜひとも今年チャレンジしてみて!
そうそう、山頂ではカップラーメンも700円とか800円じゃなかったかな?
でも人が担いで歩いて運ぶしかないから仕方ないとも思うけど…。
>こまつ
おお、D吾な!
確かにADはテープとかも持たなあかんから大変。
技術陣も荷物重くてしんどかったと思う。
こまつもぜひ一度!
まずはバスケから体力維持やね!
Posted by: FT編集長 | 2006年6月11日 01:52